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Newsletter :: Issue No. 32
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2005年 1月号          アーカイブ
English Japanese

翻訳 TALK 1月号のごあいさつ

明けましておめでとうございます。

旧年から引き続きましての翻訳トークのご愛読、誠にありがとうございます。 毎月1回ではございますが、よりいっそう充実した内容となるよう、本年も精一杯向上を重ねてまいりたいと存じます。今後ともお付き合いを賜ることが出来ますよう、何とぞよろしくお願い申し上げます。

さてアメリカのクリスマスから年末年始にかけては、どのような過ごし方を一般のアメリカの人々はされているのか、皆様ひょっとしましたらご関心がおありなのではないかと思いまして、簡単にご紹介させていただきます。 ただしクリスマス期間と申しましても、クリスマス休暇と称して、長い休みを取るアメリカ人はまわりを見回しましてもそれほど多くないような気がいたします。

製造業などの工場を持つ企業では、クリスマス直前から年始にかけて長いときには、10日間近くの工場操業のシャットダウンを行い、その間に普段はとてもすることの出来ない大掛かりな設備関係のメンテナンスや改造工事などを施行したりします。 メンテナンス担当の従業員は逆にこの期間は、クリスマスの日ぐらいしか休みが取れず、1年の中でも最も忙しいスケジュールとなる場合もあります。 一方では、工場の現場で働く製造関係の従業員は、10日近く休みを取ることができます。 しかし、工場でも製造現場ではない、経理や人事、購買や総務などといったオフィス部門で働く従業員は、カレンダーどおりのスケジュールで普通に働き、あとは個人で積み上げて貯めているバケーション時間を休暇にあてて各自が比較的自由に休みを取ります。

弊社も正社員10名たらずの小企業でありますので、休みは、ほぼカレンダーどおりで、年末は12月30日まで終日働き、新年も1月3日からの通常どおりの業務開始です。 それでも、クリスマスと年末年始が週末をはさんでの2週連続の3連休となりましたので、それなりにリフレッシュができ、私も家族も精神的にも肉体的にも充電することができました。

私の家族の恒例行事なのですが、毎年年末から年始にかけて妻の両親と兄弟姉妹あわせて5家族が集まって、オレゴン海岸にあるレンタルハウスを借り切って自炊をしながら過ごします。 今年も昨年と同じレンタルハウスを12月30日から3泊4日で借りることが出来、天気は今ひとつであったものの、自然のままの砂浜と海岸線が残るOcean Sideというオレゴンの小さな海辺の町で、海を眼下に垣間見ながら兄弟姉妹の家族総勢14名と水入らずで過ごしてまいりました。

Ocean Sideに到着したその夜からは、けっこう激しい雨と風とに見舞われまして、海の方もだいぶ荒れていて大波が浜辺に打ち寄せていたようでした。翌朝、まだ小雨が残る中を砂浜まで出てみますと、クラゲの大群が砂浜に打ち上げられていました。 砂浜に打ち上げられたクラゲの大群を見るのは初めてのことで、英語でクラゲがJelly Fishと呼ばれる所以が実によく実感できました。 (クラゲを足で恐る恐る踏んでみると本当に大きなジェリーの塊を踏んでいるようでした。)

滞在中の食事は、各家族が当番で交代につくりましたので、それぞれの家庭自慢のお得意料理を堪能することが出来ました。 私たちは、日本のカレーライスを大晦日の日に作り、大変好評でした。(日本の風習に従って年越しそばという手もあったのですが、大人数分であったため、あえてカレーにしました。) 

メキシコや中南米まで医師団チームの派遣に付き添ってしょっちゅう出張で出かけている看護婦をしている義姉のヘザーとご主人のプロの写真家であるポールはすっかりメキシコ料理にはまっていて、メキシコで買い入れた食材と香辛料とを持ち込んで本格的なメキシコ料理を披露してくれました。 メキシコ料理に若干の偏見を抱いていた張本人である私にとりましては、予期せぬほどの美味を味わうことが出来たこの機会はなかなかの収穫でありました。

そのヘザーは、休暇2日目で医師団チームからの呼び出しがあり、今回のスマトラ沖大地震での医師団チーム派遣準備のためにポートランドにある病院に1月1日の元日だというのに、戻ることを余儀なくされ、オレゴン海岸を一人あとにしてチームの待つ職場へと向かったのでした。

Ken Sakai
President
Pacific Dreams, Inc.
KenFSakai@aol.com


 




Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
President

 


翻翻訳事始め − 第32回 「日本語と英語の構文比較」

今回の「翻訳事始め」は、年末年始にかけて読了しました、上智大学文学部教授であります安西徹雄氏の幻の名著「英語の発想」(講談社現代新書)をベースにさせていただきまして、日本語と英語との間に存在する表現や構文上の違いについて、言語学的な比較をできるだけ平易に検討・解説してみたいと思います。

「幻の名著」とあえて記しましたのは、この著書はすでに絶版となっているからでありまして、古本屋さんは別として、一般書店やアマゾンドットコムからでは購入することが出来ないからです。 一気に読了した後の感想としましては、日本語と英語との言語学的な違いについてこれほど分かりやすく、かつ懇切ていねいに一般読者向けとして書かれた書籍は恐らく今までにも前例がなかったのではないかということでした。 しかも、安西教授の目線は、あくまでも翻訳者としてのそれでありまして、翻訳を実際に行う現場の目でもって、比較・検討を行い、「翻訳読本」としても大変すぐれた構成内容となっております。

著作の中における安西教授の立場は、日本語と英語と間で対照言語学を研究する研究者であり、なおかつご本人自身が翻訳者としての見事な試訳を提供されているというところにまずは、私の耳目が集中しました。 日本語と英語との間に存在する決定的な構文上の違いに由来するいくつかの特徴的キーポイントによって、そのまま英語を日本語に直訳したのではどうにもこうにも座りの悪い、日本語としてはきわめて不自然な翻訳になってしまわざるを得ない状況に陥ってしまいます。

これは、翻訳をしたことのある人であれば、必ずや経験する一種のジレンマであり、直訳しただけの翻訳では、お客様にとっては、とても使いものにならないという場合が出てまいります。 安西教授がご指摘されている特徴的キーポイントとは以下のような比較対照であります。

1) 英語は名詞中心構文であるのに対して、日本語は動詞中心構文である。
2) 英語は、<もの>を主語とした無生物主語構文が数多くあるのに対して、日本語ではあくまでも人間を主体とした構文にした方がはるかに自然な文章である。
3) 英語では、重要な用件は文章の前部に置かれるのに対して、日本語では、文末に置かれる傾向が強い。
4) 日本語は動詞の働きによって、主語がわかるような構文になっており、そのために主語をあえていちいち書き表す必要がない。
5) 日本語には、英語で使われるような間接話法が存在しない。(日本語では、一般に直接話法で表現する。)
6) 日本語では、物事全体が自然にそのようになったというような状況関係的な表現を好むのに対して、英語では人間の行動中心として論理的な把握をし、「(動作主としての)主語+他動詞+目的語」という語順の形式による表現を好む

1)から6)までの比較検討は、かなり文法的な内容も含まれてはおりますが、例えば、4)で指摘されている日本語での主語の欠落については、"日本語とは、主語がなくても意味が通じる「以心伝心」の言語"だということは、感覚的には当然認知し、それは、日本語という言語のもつある種の宿命的な性格であるとこの著作を読むまでは私自身、かたくなに信じ込んでおりました。

しかしながら、よく考えてみますと、なぜ日本語に主語がなくとも、少なくとも日本人には主語が誰を指すのかを理解できるのか(ときどき理解できないこともありますが)ということになりますと、(そのような質問は想定だにしておりませんでしたが)答えるすべさえ持っていないことにふと気づかされるわけです。 安西教授が引用した川端康成や谷崎潤一郎といった日本の文豪の小説作品をコロンビア大学名誉教授でありますサイデンステッカー教授の名訳(英訳)を用いて、主語のない文章に対して誠にもって詳細なる解析を行っています。

そこでは、私が今までに意識さえもしたことがないような深遠なる結論を導き出しています。それは、日本語に存在する敬語や謙譲語などの使い方で、誰と誰との間の話であるのか、小説を読みすすんできた読者であればそれが自然と判明することができるような仕組みになっているというのです。 ですから、いちいち、主語を書かなくても状況判断、ならびに登場人物同士との間にある人間関係からの推察によって誰が誰に対して話をしている場面であるのか、ほぼ間違いなく見当がつくものだというわけです。

2人の文豪が書いたそれぞれ主語のない文章を翻訳されたサイデンステッカー教授は、英語では、それこそいちいち主語をこまめに入れなければならないわけで、敬語や謙譲語といった言葉の用法が存在しない英語では、主語がまったくなければ誰が誰に対して話をしている場面であるのか、推察することさえきわめて困難な状態となります。

このような主語のない文章に長い間、慣れ親しんできた日本人の方々は、半導体製造装置の操作マニュアルのようなテクニカルな文書の中でも、主語のない文章を(割と平気で)お書きになります。 人間関係の機微が展開される小説舞台の中でならいざ知らず、マニュアルのような敬語や謙譲語からは縁遠い技術文書の中で主語を省かれますと、日本人であり、ベテランの翻訳者であるといえども、頭をひねりつづけながら、推察の域を出ないような翻訳を強いられることになります。 これは、今だに遭遇することの数多くある翻訳者泣かせの代表例であると申せましょう。

この安西教授が指摘している日本語と英語との間に存在する構文上の違いとその比較につきましては、誠に興味の尽きない内容がまだまだ盛りだくさんに網羅されておりますので、次回の翻訳事始めでもその続きをご紹介させていただきたいと思います。

 

 
   


シンドロームX

毎年、12月のセミコンジャパンを終えて日本からの出張から戻ってきた後に、気力が衰え、朝起きるのが大変つらくなる日が多くなります。 12月の冬至前後は、緯度が高い関係で、オレゴンの朝は8時近くにならないと明るくなりませんので、ただでさえ、朝はつらいのですが、それに輪をかけてエネルギーのない感じの寝起きを迎えます。

血圧計で血圧を測ってみると案の定、今までになく高い危険水域に達していることがわかり、こうなりますとすぐにドクター・アポイントメントです。 幸いにも今までに何度も診てもらっているNaturopathy (自然治癒)とこちらでは呼ばれているドクターにすぐにアポが取れ、さっそく行って、血液検査などを受けました。

その結果は、やはりどの数字もかなり悪く、このまま放置を続けるとあと2、3年たったらほぼ間違いなく糖尿病になるだろうとドクターから宣告されました。 また、糖尿病予備軍の状態を最近の医学用語ではシンドローム Xという命名をしていて、まさにこのシンドロームXになった段階であることを告げられてしまいました。

シンドロームXとは、糖分や炭水化物の取り過ぎによって、血糖値(グルコース)が食後急に高くなり、それを押さえ込もうとしてインシュリンというホルモンがすい臓から大量に分泌をされます。 インシュリンのこのような大きな量的変動は、高血圧や高(悪玉)コレステロール、肥満、疲労や老化を促します。 シンドロームXは、主に食事から発生する代謝障害の一種であり、ストレスや運動不足などでさらに問題は促進してまいります。

これらは、ドクターから言われてさっそく購入した書籍、その名も"Syndrome X"という本を原文で読んで理解した内容です。 書籍の中には、どのような食事をとるべきかということで、その名もアンチXという食事療法が紹介されています。 私にとりましての2005年の新しい誓いは、このアンチXという食事療法とフィットネスプログラムを実行に移すことありまして、シンドロームXから早々におさらばすることであります。 

ただしこの食事療法とフィットネスプログラムを続けていくには、かなりの意志の強さが必要となりますので、新年の誓いとしては誠に申し分のない(?)目標設定であるかと勝手に自負しております。 実際、アメリカに長く住んでおりますと、日本人であっても、この国の食生活にどっぷり漬かって過ごしてしまっていたら、遅かれ早かれこのシンドロームは誰にでも訪れる危険性がきわめて高いものだと思います。 また追って、進捗状況につきましてレポートをさせていただきたいと思います。

 

 

書評「ソフト・パワー:21世紀国際政治を制する見えざる力」
"Soft Power:The Means to Success in World Politics"
Joseph S. Nye, Jr. 著・山岡 洋一 翻訳
日本経済新聞社 ・2004年9月14日刊・269ページ

今回ご紹介いたしますのは、アメリカを代表する安全保障問題の第一人者であり、クリントン政権時代には、国防次官補を歴任し、現在はハーバード大学ケネディ行政大学院教授にありますジョセフ・ナイ氏の近著です。

ナイ教授が定義する"ソフト・パワー"とは、グローバル化が進む21世紀の今日、その国が持つ文化や価値観、外交政策などの魅力によって、他国の人々を引きつける力だということになります。 それは、従来国の持っている力を推し量るために唯一重要視されていた軍事力や経済力といったハード・パワーとは、区別されるもう一つの別の力であります。

実際にナイ教授が初めてソフト・パワーという概念を導入したのは、1989年で、当時のアメリカは、経済的には、日本との競争で一敗地にまみれ、経営者や国民は自信を喪失していた時期に重なります。 しかし当時のアメリカは、十分にソフト・パワーとしての魅力を維持しておりましたので、90年代に入ってからのアメリカの成長と繁栄振りは目を見張るものがあったわけです。

これに対して、ナイ教授が憂慮し、警鐘を鳴らしているのは、イラクでアメリカがとった単独主義的政策であり、先制攻撃による軍事行動であったわけありまして、ご存知のようにこれによって世界中で過去に例を見ない反米感情の高まりやひんしゅくを買ってしまいました。 このような政策や行動がアメリカの従来持っていたソフト・パワーを著しく低下させ、逆に軍事コストの上昇や政府への信頼を損ねるといった負の循環に陥ると指摘しております。

さりとて教授は、軍事力を含めたハード・パワーの必要性を否定しているわけではなく、テロの脅威に対して軍事力の一定の行使と維持は重要であり、さらに考えなければならないのは、このソフト・パワーもハード・パワーと同じくらい重要であるという論旨が明快に展開されてまいります。 例えば、ソフト・パワーは、国家組織に関する問題だけに限らず、国際テロ組織であるアルカイダのようなイスラム過激派においてもソフト・パワーを効果的に用いることで、彼らの持っている魅力を感じる人々が世界中で生み出しかねない状況をつくることさえも可能だとしています。

このような危険性を現ブッシュ政権は理解しようとしない点に教授の警告は真実味を帯びている感じがいたします。 9・11以後世界の枠組みの中で、ソフト・パワーの効用がこれほど重要になっている時期は他にないように思えます。

最後に、日本についての記述もありまして、アジア諸国の中にあって、最もパワーの源泉を持つ国でありながら、まだまだソフト・パワーを十分に発揮できていないと鋭い論評がなされております。 それは、他の国々との交わりがまだ少なく、移民も十分に受け入れられておらず、さらに英語によるコミュニケーション能力も不足しているという点などが、ソフト・パワー行使の上での大きな障壁となっているというご指摘です。 アメリカを代表する碩学からの日本に対する論評としては、このようにかなりダイレクトで、耳の痛い内容になっています。 残念ですが、ご批判の矛先は、本国の現政権だけではないようです。

*Pacific Dreams, Inc. では、「ソフト・パワー:21世紀国際政治を制する見えざる力」(日本経済新聞社刊:$36.00 Each, Plus Shipping & Handling $6.00)を在庫しておりますので、ご希望の方は、お電話 (503-588-7368) または、E-mailで bookstore@pacificdreams.org まで、ご連絡ください。

 

   

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