「翻訳トーク」 2006年3月号のごあいさつ
先月と今月にかけまして、ここのところ出張が目白押しでありまして、オフィスの座を暖めている暇もありませんでした。カリフォルニアのシリコンバレー(サンノゼ)に 2 回、アリゾナ州のフェニックスに休暇と仕事とを兼ねて妻とともに行った後に、東京に 10 日間ほど出かけていて、ちょうど戻ってきたばかりのところです。
先月のこの「翻訳トーク」では、シリコンバレーを訪問した際に感じた昨今の思いとグーグルのユニークで斬新な企業経営などについてレポートさせていただきました。今回は、同じ月に東京に行っていたということもあり、シリコンバレーと東京との違いにつきまして、まずは私の思いつく感想をお伝えできましたらと思います。
大きな違いのひとつとしては、シリコンバレーでは、空港でレンタカーを借りて、お客様をご訪問しますが、東京では、基本的に電車と地下鉄とを乗り継いでお客様をご訪問します。シリコンバレーは、サンフランシスコ・ベイをはさんで、ウエスト・ベイとイースト・ベイとに分かれますが、縦横に走るハイウェイとそれぞれのベイサイドをつなぐ橋とをできるだけ最短距離にてうまく連動させながら上手に利用することと、車のラッシュアワーの時間帯はできるだけ避けて、効率的な訪問計画を練るということが短い訪問時間内での成功の決め手になってきます。
一方の東京では、都内の地下鉄路線図を常に懐にしのばせて携帯し、地下鉄や JR 線、そして私鉄各線への乗り継ぎを頭の中で練りながら、訪問に出かけるというのが、パズルを解くような面白さがあって、毎日けっこう新鮮でした。今では、ほとんどの会社にはホームページ上でオフィスの行き方が書かれた地図がダウンロードして印刷もできるようになっておりますので、初めてご訪問させていただいたお客様の会社でも、地下鉄の出口番号さえ間違わなければ基本的には、電話をかけまわって道順を聞いたりするようなこともなく、ほぼアポの時間通りにおうかがいすることができました。
東京滞在中は、日本中や世界中を震撼させるような大ニュースも特に起こらず、日本はひたすら WBC (World Baseball Classics) のニュースで毎日が持ちきりでありました。恐らくアメリカに同じ時期にいたのであれば、 WBC の生中継などは、ケーブルテレビ( EPSN など)に加入していない限りは、自宅のテレビで熱戦を楽しむことなどは到底かなわなかったことだろうと思いました。ですから遠い昔の野球小僧(小学生の頃)であった私としては、なんて幸せな時期に偶然日本に行っていたのだろうと、世界一のわがチームの試合を毎回テレビで手に汗しながら、観戦していたという次第です。
チームジャパンの素晴らしいプレイと熱戦振りとに、日本と日本人が自信と明るさを取り戻したような時期でもありました。そして私として特に嬉しかったことは、メジャーリーグの 2 人の選手、イチローと大塚(テキサス・レンジャーズ)がチームジャパンをよく引っ張って、ここぞというときにその実力を遺憾なく発揮してくれたことです。 ( 大塚は、アメリカでも知らない方が多いのではないかと思いますが、近鉄からメジャーリーグに移り、昨年までサンディエゴのパドレスでクローザーとして活躍していた投手です )
アメリカに長い私としては、しばらく日本のプロ野球の試合を身近で見るような機会が皆無でありましたものですから、ほとんどの選手が私にとっては馴染みのない選手ばかりでありましたが、ロッテやソフトバンクなどを中心としたパリーグの選手はとりわけすばらしい選手で、彼らの本当に全力を出し切ったプレイを見ていて、本当にすがすがしい思いを抱きました。 ( 特に松中や川崎には、夢中で声援してしまいました )
テレビで試合を見守る日本のファンの姿も、スポーツバーやスポーツクラブなどでの中継がありましたので、興味深く見ることができましたが、驚きましたのは、日本では、男性と同等に女性もそれらの場所で、男性に負けず劣らず声援をしていた姿でありました。アメリカのスポーツバーなどでは、大多数を占めるのはアメリカ人の男性で、女性でそのような場所で、男性に伍してチームの声援をするというのは、意外であるかもしれませんがアメリカではあまりお目にかかれない光景でした。また、サンディエゴのペトコパーク・スタジアムでも応援していたのは多数の日本人女性の姿でありました。
なんでも男女平等が進んだ国の筆頭に位置するはずのアメリカなのですが、スーパーボウルやワールドシリーズなどでテレビの前に陣取ってビールを飲みながら、観戦に見入っているのはほとんどが男性の姿ばかりです。スポーツを見ることにはご関心のないとおっしゃる女性も多いこの国では、例えベースボールをはじめとするいくつかの偉大なスポーツ発祥国であっても、スポーツで一国中がまとまるというようなことは、他の国々に比べてきわめて少ないような気がいたします。
アメリカに戻って、早速こちらの地元新聞では、この WBC についてどのように報道していたのかと気になっておりましたものですから、決勝リーグが始まったあたりから、たまっていた新聞の束をひっくり返して見てみましたところ、何とスポーツ・セクションの1面にさえ、 WBC のニュースは載っていないのです。決勝戦の日本 vs. キューバも 3 面記事扱いで、スコア表の日本の表示が JAP (当然のことながら、 JPN が正しいわけです)となっており、これは、いくらなんでも日本に対して本当にひどい差別ではないか(仮にスコア欄を担当した新聞社の社員が意識せずに、あるいは無知でそう記したにしても!)と心外やるかたない気持ちに襲われました。
そんなわけですから、弊社の大和なでしこの女性社員たちにも WBC っていったい何のことですか、ボクシングの試合ですかと言われる始末でありました。このように、アメリカ本国の WBC に対しましてのメディアの対応は、本当に残念無念な状況であり、イベントとしてもまったく注目されていなかったということが図らずも浮き彫りになってまいりました。
しかしながら一方で、今回の WBC を見ながら、日本はつくづく女性が元気な国ではないかとあらためて感じ入った次第でもあります。 WBC で日本人男子が世界の頂点立ったわけでありますから、今度は、日本人男性が日本人女性に負けないように元気になっていくことが要求されてまいりますね。世界における日本人のプレゼンスが今回の WBC での初代優勝を通じて、少しでもレベルアップしていくことを期待したいと思います。ご同輩諸氏の皆さん、共に頑張ってまいりましょう。
Ken Sakai
President
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