翻訳事始め − 第 36 回「 Extrovert (外向型) vs. Introvert (内向型)」
組織の中で働く個人の性格判断を行う性格診断ツールとして、マイヤーズ・ブリッグスによるパーソナリティ・テストというものがあります( MBTI R : Myers-Briggs Type Indicator )。ユング派の心理学者であったイザベル・マイヤーズ は、 1943 年に彼女の母であるキャサリン・ブリッグスとともに、性格分類を行うことのできる有名な心理学テストメソッドを開発しました。 現在でもアメリカ企業の多くでは、このすでに古典的とも呼べる心理学テストメソッドを社内での社員向け性格分類診断ツールとして幅広く採用をし、社内のチームワークの活性化や効果的な人事配置にと役立てています。
このテストの中では、基本的な4つの質問があり、その質問に答えたそれぞれの頭文字をとって、性格判断の分類として整理をし、 16 の性格分類とその各分類の特徴を掲示しています。 それぞれの質問の概要は、以下のようなものです。
1. 最も自然なエネルギーの発露 (Most Natural Energy Orientation)
E : Extraversion (外向型) Vs. I : Introversion (内向型)
2. 認識する、あるいは理解する方法( Way of Perceiving or Understanding )
S : Sensing Side (感知検出型) Vs. N : iNtuition Side (直感把握型)
3. 判断基準ならびに選択方法( Way of Forming Judgments and Making Choices )
T : Thinking Side (分析思考型) Vs. F : Feeling Side (主観感受型)
4. 外部世界に対する行動適応( Action Orientation towards the Outside World )
J : Judging Style (思慮分別型) Vs. P : Perceiving Style ( 知覚順応型 )
これらの質問に答え、その答えによって、確かに人は、 16 ある分類の中のひとつにあてはめることができるのですが、分類に入るそれぞれのカテゴリーへの度合いには、人によって当然のごとく強弱が存在していて、そのところを十分理解していないと逆に組織の中で差別を助長しかねないような悪影響も出てくることに注意を払わなければなりません。 従いまして、このテストを主催して審査する資格を持つ心理学の専門家を通じて、テストの実施とテスト後のカウンセリングやオリエンテーションを行うことが通常義務付けられています。
さて、前置きが少し長くなりましたが、今月のコラムでお話をしたかったのは、翻訳者の一般的なパーソナリティに関しての考察であります。 4 つある上記の質問の中で、3つは、翻訳者という枠組みの中では、特にこれはといった共通項を見出せない傾向になろうかと思われますが、最初の質問であります、“最も自然なエネルギーの発露”という質問事項におきましては、翻訳に従事されている大部分の方々は、 Introvert (内向型)の分類に入るのではないかという結果が予想されます。
弊社の組織内を見ておりましても、それは誠に顕著でありまして、おしなべて社内翻訳者として長続きをしてくれるスタッフは、 Introvert のタイプであります。 また、弊社で長期にわたってお世話になっております社外にいるフリーランスの翻訳者の方々も、例外的な方はいらっしゃるとしても Introvert の分類に当てはまる方が支配的なのではないかというのが、私の経験則であります。
ここで、ひとつ重要なことは、一般的にそのような性格的タイプを持つ翻訳者の方々には、 Introvert なる性格を十分肯定的に生かすことのできる職場環境であるとか、評価基準などを他とのバランスを考慮しながらも設定することにあると、やはり今までに翻訳事業を経営してきた私の経験則から申し上げることが出来るものと思います。そして、職場でのトレーニングやひいては、長期的な視野で見た職業人としてのキャリア・パスの指導や開発につなげられることができれば、それは個人にとっても組織にとっても大変有意義なことだと考えられます。
最近は、私も年齢が 40 代後半にさしかかってきたせいなのか、「人を育てるのが経営者としての仕事」であることを折りに触れて痛感することが増えてまいりましたので、このマイヤーズ・ブリッグスの母と娘が今から 60 年以上も前に残してくれた性格診断テストは、組織での正しい適用の仕方と組織に生かす趣旨の理解を徹底できれば、各個人のスキルや職業人そして組織人としての発展と成長を会社としてサポートしていけるようにと志を新たにしております。 また、この志は、単に社内のスタッフだけに留まらず、社外で弊社のために同じく尽力されているフリーランスの翻訳者のためにも活用できるようにと高邁なビジョンを遠い将来に向けて、ボンヤリではありますが、考えてまいりたいと感じております。
Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org |