翻訳事始め − 第 38 回「第 3 回 ALC 年次総会参加報告」
ちょうど 2 年前の 2003 年 6 月に地元でありますオレゴン州ポートランド市のダウンタウンにあります Embassy Suite Hotel で第 1 回の ALC Annual Conference が開かれ、その参加報告をこの翻訳事始めでやはり 2 年ほど前に皆様にご紹介をいたしましたが、2年ぶりに第 3 回 ALC Annual Conference に参加するため、ローズボウルやローズパレードで有名な LA 郊外にありますカリフォルニア州パサディナ市を先週訪問してまいりました。
まず ALC についてなのですが、“ Association of Language Companies ”( www.alcus.org )の略称で、端的に申し上げれば、翻訳会社の業界団体であります。毎年 6 月中旬に年 1 回の総会が開かれ、第 1 回がポートランド、昨年の第 2 回がワシントン DC (昨年は、日本への出張があり、私は不参加)、そして今年のパサディナ、さらに来年は、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれることがすでに決まっています。
現在の ALC 会員メンバー企業数は約 90 社で、このパサディナでの総会期間中、 ALC メンバーシップ委員会からの熱心な勧誘もあって、弊社もとうとう ALC のメンバーになることを決めました。第 1 回の総会でメンバーになることに躊躇したのは、当時 ALC の組織自体が生まれたばかりで、ヨチヨチ歩きのような段階であったので、どのような業界団体として発展していくのか、私としてもまだ見極めがつかなかったために、メンバーになることを見送っていましたが、今回、総会の運営自体の進歩やメンバーの充実ぶりなどを見て、自信を持ってメンバーになることを決めた次第です。
第 3 回目の総会の統一テーマは、“ Strategies for Growth ”。 冒頭のご挨拶のところで書かせていただきましたように、過去 3 年間で 50% の成長率を記録した弊社にとりましては、まさに水を得た魚のようなテーマでもあり、今年の総会には、万難を排して出席しようと考えておりました。総会には、約 120 名ほどの出席者があり、私が参加した第 1 回のときの 54 名から比べますと倍以上の出席者数となり、海外からもヨーロッパ(イギリス、アイルランド、オランダ、ドイツ、イタリア、スペイン、フィンランド、チェコ)そしてシンガポールやニュージーランドからの参加者が遠路はるばる、この活力みなぎるパサディナの街に結集いたしました。
思うに、アメリカでは、各産業、特に各サービス業界には、このような業界団体( Trade Association )がいったいどのくらいの数があるのだろうかとふと考えさせられました。おそらく、 ALC のように設立されてから、まだほんの数年という業界団体もきっと数多くあるに違いないと推測されますし、毎年、このような業界団体が新しく生まれ、業界団体数は今後とも間違いなく増えつづけていくのではないかと思われます。
そのような業界団体が年に 1 回開きます年次総会( Annual Conference )は、会員相互の交流とネットワーキングを推進し、その業界が抱えている特有の問題点に対する懸念の喚起と解決に向けての認識の一致をはかり、業界全体のレベルアップと世間一般に対しての啓蒙とを主目的にしているものと言うことが出来るかと存じます。また、業界に製品やサービスを提供しているベンダーやコンサルタント会社などにとっては、ビジネス獲得の効率的な機会到来のチャンスであり、ブースの出展や総会のスポンサーなどになって、会社の名前を広く知らしめたり、製品の特別プレゼンテーションの時間を設けて、新製品のデモなどを披露したりして、余念なく PR に努めることが出来ます。
それでは翻訳会社業界における特有の問題点というのは、何なのでしょうか。 IT を中心とした進化を極めるテクノロジーの問題、(中国やインドなどへの)アウトソーシングの問題、人材採用や人材育成の問題、財務管理上の問題などなど、ほぼどこの業界にでもついてまわる基本的な問題が大半であるような気がいたしました。ただ、翻訳会社の場合、 10 人以下の典型的なスモールビジネスの形態をとっているところがほとんどなものですから、会社経営そのものは、個人オーナーによる非公開企業でありますので、驚くような成長や急激な規模の拡大には、おのずと限界がついてまわります。
ところが、今年の総会での目玉のひとつといってよいのではないかと思ったことですが、翻訳会社の M & A (企業の買収と合併)に関するパネル・ディスカッションがプログラムに設けられました。参加者の中には、どうもこのパネル・ディスカッションだけをお目当てにお越しになっていた方々もいらしたようで、さまざまな質問が飛び交わされ、熱い議論が至るところで展開しておりました。このような光景を実際に眼にして、アメリカの翻訳業界もいよいよ M&A の洗礼を受ける時代へと突入したのだなという実感を得ました。(実のところ、弊社もある翻訳会社から会社を売らないかとの打診を総会期間中に受けました!)
2 年ぶりに参加したこの総会では、前回ポートランドでお会いした多くの翻訳会社オーナーの方々、ならびに今回初めてお会いした方々と打ち解けた雰囲気の中でのすばらしい時間を過ごすことが出来ました。最後に行われた“ Gala Dinner ”(正装したディナーパーティ)もパサディナ美術館の屋上でジャズバンドの生演奏とリッチな食事にカクテルやワインを交えて、大変にメンバー同士で盛り上がり、“ Memorable ”(忘れられない)なひとときとして、 4 日間の最後が締めくられたのでした。
Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org |