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Newsletter : Issue No. 44

       翻訳トーク
2006年1月号  アーカイブ
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「翻訳トーク」 2006年1月号のごあいさつ

明けましておめでとうございます。

旧年から引き続きましての「翻訳トーク」のご愛読、誠にありがとうございます。毎月1回だけではございますが、よりいっそう充実した内容となるよう、本年も精一杯向上を重ねてまいりたいと存じます。今後ともおつきあいをいただけますよう、何とぞよろしくお願い申し上げます。

アメリカでは、ご存知のようにクリスマスまではクリスマス・ミュージックがいたる所で流れ、家々はクリスマスの電飾に彩られ、町の小売店や量販店はどこも大々的なセールを開催しと、クリスマスの風物に関して取り上げれば枚挙に暇がないのでありますが、こと12月25日を境目に、大晦日までの間は、何か冷めてのび切ってしまったラーメンのような感じがして、迫り来る年の瀬と新しい年を迎えるにあたっての引き締まるような日本人的な心理状況からみますと、毎年のこととはいえ、アメリカの年末年始は誠に物足りない風情でした。

やはり日本人としては、ニューヨークのタイムズ・スクエアでのカウントダウンをテレビで見るよりも、108の除夜の鐘に耳を澄ませていたいと思うのは私もそれなりに年をとってきたからなのでしょうか。戌年であります本年は、私としては4回目にあたる年男となる年でありまして、次の戌年が来たら、今度は還暦ではないかと思うとまさに光陰矢のごとし、内心少々落ち着かない心情が内から湧いてくるような気がいたします。

弊社の昨年の活動などをここで簡単に振り返ってみますと、2005年4月に2つあったオフィスをひとつに統合して、現在あるポートランド郊外に位置するウイルソンビルという町での環境に優れた瀟洒なオフィスに移転したことが最も大きなハイライトでありました。2つに分かれていたオフィスを統合したことによって、社内でのコミュニケーションは大幅に改善し、大きな翻訳プロジェクトもより柔軟にそしてタイムリーに対応することができるようになったのではないかと考えております。

弊社の決算は、暦の通りで、12月末での年度締めとなり、現在、経理担当者が2005年度の年次決算報告書の作成を急いでいるところです。おかげ様で、2005年は、3年連続の二ケタ台の成長率を維持することができまして、目標としていた売上額も何とか無事達成することができましたのは、まさに弊社スタッフ全員のチームワークの賜物であると誇りに感じております。

年末年始になりますと、日本のマスコミは、少子化や老齢化社会、そしてすでに2005年人口減に直面した日本の将来像に関して、特集記事をこぞって組む傾向にあるようです。今後、日本の景気がよくなり、株価上昇が続くにつれて、人手不足、特に、団塊の世代が定年退職を迎える2007年からは、より深刻な問題になることが騒がれておりますが、団塊の世代退職以前の問題として、新規採用停止や組織のリストラを断行してきた多くの日本企業にとっては、スキルと経験のある人材の不足が経営上の深刻なアキレス腱になるのではないかと危惧しております。

それは、まさに弊社でも遭遇している解決の難しい問題なのでありますが、人材の発掘と採用、そして社員の育成やキャリアの実現というのは、今年もまたひとつの大きな課題であり、チャレンジであると考えております。特にアメリカでは、もともと人材の流動が激しいのが常でありましたので、経営者としては、社員を引き付け、とどまってよい仕事を効果的にしてもらうことのできる魅力的な職場作りと環境作りとが、今年の大いなる命題であると強く肝に銘じております。

年頭から少々硬いご挨拶となってしまいましたが、もうひとつ今年重要なことは、私自身の健康管理です。先月号でもシェアさせていただきましたが、セミコン・ジャパンで開催するセミナーのために日本への出張をした際に、風邪をこじらせてしまいまして1ヶ月以上にも及んで、体調不良の状態が毎日続き、本当にまいりました。どうも私は風邪を引くと気管支をすぐにやられるようでして、咳がいつまでも引きませんでした。

風邪引きのおかげで、年末年始は、日本でいうお正月映画(今年はあまり大した話題作もありませんでしたが)を何本か妻と一緒にはしごするのを常としていましたが、それもできませんで、休息と回復に徹したホリディとなってしまいました。健康を取り戻して、大作や話題作となるような新作の映画を今年はできるだけ進んで見てみたいものだと抱負を抱いています。私が見て感動した映画は、この翻訳トークの中でも、そのさわりをこっそり皆様方とシェアできればいいなと思います。

ハリウッド映画の大作で、鳴り物入りで宣伝されておりました「キングコング」はすでにこちらでは下火のようで、スピルバーグ監督の公開されたばかりの新作である「ミュンヘン(原題:Munich)」が話題作というか、問題作として目が離せないような批評が地元紙の映画コラムを賑わせていました。内容は、1972年に実際にミュンヘン・オリンピック選手村で起こったテロ事件をベースにしたものだそうです。スピルバーグ監督としては、彼が共同経営していたドリームワークス社(創立当時から弊社の名前と似ているので注目をしておりました)が経営破綻をして、つい最近ユニバーサル社に買い取られたようなのですが、ユニバーサルからの配給第1号の作品となるとのことで、この映画がユニバーサルでの今後の試金石になるのではと衆目の期待が集まっています。

さて、いつになくとりとめのないことをダラダラと書いてしまいました。私は、3月中旬にはまた東京でセミナーをいくつか行う予定となっておりますので、日本に出張いたします。セミナーの内容(翻訳のセミナーならびに米国人事管理セミナー)や日本行きのスケジュールなどにつきましては、来月号の翻訳トークでまた詳しくご紹介させていただきます。

それでは、健康で、公私ともどもに充実した1年をお互い過ごすことができますようにと祈願いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org

Pacific Dreams, Inc.
25260 SW, Parkway Avenue, Suite D
Wilsonville, OR 97070, USA
TEL : 503-783-1390
FAX : 503-783-1391


 


Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
President


翻訳事始め − 第 45 回「翻訳するのは人間」

このコラムでは、今までに機械翻訳や翻訳支援ツールなどについてのテーマを折に触れて取り上げて皆様にご紹介してまいりましたが、今回は、本年最初の「翻訳事始め」でもありますので、翻訳の原点に立ち戻ったお話を少し書いてみたいと思います。

実務翻訳(産業翻訳ともいいます)の世界は、ITを中心とした製品マニュアルの大ボリューム翻訳需要がこの業界全体を毎年押し上げてくれておりまして、おかげ様で、弊社でも確実に業績が上向いてきております。大ボリュームのマニュアル翻訳を限られた短い納期内で完了させるためには、前回も申し上げましたように、TRADOSという翻訳支援ツールに依存せねばならず、このTRADOSなしには、マニュアル翻訳は、にっちもさっちも先に進みません。

現在では、多くの個人翻訳者の方々でもTRADOSのフリーランス・エディションという個人向けのソフトウエアを購入され、毎日、TRADOSとホームオフィスで格闘されている方がますます増えてきております。その一方で、TRADOSなどには、見向きもされないで、翻訳支援ツールとは一線を仕切った堅固なるスタンスをもって翻訳にいそしんでいる方々もやはり大勢いらっしゃいます。

それぞれの陣営の方々には、翻訳の仕事に取り組まれるポリシーが強く脈を打っておりまして、翻訳支援ツールを使うかどうかの判断は、どのような文書の翻訳を手がけるか、そして翻訳のレートや翻訳するボリュームをどのように考え、対応するかによって決まってくるといえます。翻訳支援ツール全盛の世の中ではありますが、決して翻訳支援ツールを使わなければならない翻訳ばかりがひしめいているわけでもないのです。翻訳支援ツールの使用を必要としない翻訳も当然のことですが、今後の需要としてまだまだ限りなく存在するものと思います。

今月の書評の中でご紹介いたしました「見える化」というビジネス書の中で、大変気になる事例が載っていましたので、皆様にもこの場を借りましてシェアしたいと思います。「見える化」の落とし穴という章の中で、ITへの偏重という指摘が実例を交えて書かれています。某住宅設備メーカーでは、顧客や代理店からのクレームをデータベース化することによって各担当部門にクレーム情報がタイムリーに共有化され、クレームに対する担当部門間での協力体制も進展して、クレーム対策が効果を上げることを狙っていたのですが、実際にはそのようにはならなかったという報告事例についてでありました。

さてこの会社では何が起こっていたのかと申しますと、営業部門でデータベースに入力したクレームは、あとは、製造部門が見て、適切な対応をしてくれるはずとの思い込みがあったため、逆に担当部門間でのコミュニケーションが不足するような不測の事態を招き、データベースそのものををもともと「見る」意思のない製造担当者にとっては、かえって「見えない化」を助長してしまったという次第でありました。

この事例は、まさしく翻訳支援ツールで構築される翻訳メモリー(TM)と呼ばれるすでに翻訳された文章のデータベース化にそっくりあてはまるような事例ではないかと思いました。TMがすでに構築されているから、そのTMどおりの翻訳をすればそれでよいのだという思い込みが翻訳者にあれば、表現に難のあるようなTMをそのまま使っても、何ら疑うようなこともなく、そのことでコミュニケーションがはかられることもなくなってしまうわけです。

アメリカにある他の翻訳会社のプロジェクト・マネージャーとTRADOSを使ったプロジェクトの問題点についてミーティングをしていたときのことですが、彼は、そのときTMのことをLegacyと呼んでいました。最初は、TM = Legacy かと単純に理解していたのですが、どうも彼がTMのことを敢えてLegacyと呼ぶのは、つまりは、品質上問題のあるTM、あるいは、改善を要しなければならないTMであるとの意味合いを込めて使っているということが会話の前後関係から次第に分かってきました。このTMをLegacyにしてしまうかどうかは、まさにTMを使って翻訳を行う翻訳者の真贋(しんがん)にかかっているのではないかとそのときにあらためて気付かされました。

先日、クラーク・ゲーブルとヴィヴィアン・リーの主演した名画「風とともに去りぬ」の完全デジタル化DVD版が発売され、その映像の鮮やかさには、大変驚かされたというコメントが日経新聞に掲載されていました。現在では、アナログ画像を自動的にデジタル化してDVDに焼き付けることのできるソフトがあって、そのソフトを使えば、往年の名画の復刻ももはや待ったなしの状況だそうです。

ところが、この自動デジタル化ソフトは、やはりプロの映像編集者の目を通して確認作業を行わない限りは、市場には到底出せないのだそうです。翻訳支援ツールがどんなに改良を加えられて、進化したツールが今後市場に出てきたとしても、それを使って翻訳した文章の確認ができるのはプロの翻訳者しかいないわけです。TMや翻訳支援ツールはあくまでも道具であって、その道具を使いこなすのは、翻訳者という人間以外にいないわけです。

トヨタでは、自動化という呼び方に対して、社内では敢えて「自働化」という漢字を当てはめているとききます。それは、機械を使いこなす主体は、あくまでも人間であって、人間が機械に使われるからではないという強い意思表示をトヨタでは表しています。翻訳もまったく同じだと思います。翻訳をするのは人間なのだという原点に立ち返ってこの新しい年での翻訳事業に対する期待と希望とを託してみたいと思います。

Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org



書評 − 「見える化:強い企業をつくる“見える”仕組み」

遠藤 功 著
東洋経済新報社 ・2005年10月20日刊・201ページ

「見える化」とは、何だか奇妙なタイトルだなと感じる方も多いかと思いますが、2004年2月出版のこの手のビジネス書としては稀にみる大ベストセラーとなった同じ著者による「現場力を鍛える」の続編という形で、企業活動における現場に存在するさまざまな問題点を実際に眼で見えるようにする取り組みをあえて「見える化」という表現を使って、整理・体系化した大変意欲的でユニークな書籍であります。

毎日、自分の眼を通して、さまざまな物や人の動き、データや数字、そして企業や社会での現象といったものを見ているわけですが、それら「見える」という行為があまりにも当然のことであると思ってしまっているために、「見えないこと」や「見えていないこと」があることを逆に忘れ、見えないままの状態を放置してしまっているケースが世の中には枚挙の暇がないほど多いことを指摘しています。

本書の中には、トヨタの有名な「カンバン」「アンドン」をはじめとして、「稲妻チャート」「星取表」「チャレンジマップ」といった、トヨタの生産や販売の現場で編み出された種々のすぐれた「見える化」事例を含む、30以上にわたる具体的事例がていねいに紹介されているのも、他社での地道で現場力を磨こうと努力する実践的な取り組み方や工夫の仕方を知ることができて、とても参考になるはずです。

私が特に共感を抱いた点として、「見える化」の落とし穴のひとつにITへの偏重があるという指摘で、本来社内でITを活用することによって「見える化」が促進されるはずなのに、現実は「見てくれているはず」という期待感を前提にした仕組みであるがために、「見えない化」や「見ない化」を助長する羽目になってしまうという逸話は、弊社にもひょっとしてあてはまることではないかと思わず苦笑いを浮かべたものでした。

著者は、最後に「見える化」という全社的な改善活動を通じて、人をつくり、新しい企業風土を築き上げていくことができるということで、本書を結んでいます。「モノづくりは人づくり」(トヨタ)といわれてから久しい気がいたしますが、「見える化」という製造現場での徹底的な取り組みは、まさに人間を信頼した上で成り立つという意味で、実は、製造業だけではなく、どのような企業形態であっても導入可能なのであり、製造とは直接関係ない部署で働く人たちにとっても応用することのできるきわめて奥の深いコンセプトであるということが数々の事例を通じて理解することができます。

弊社でもこの「見える化」を2006年の事業計画ならびに目標の中に何らかの形で取り入れて実践に移してみたいと考えているところです。このような気持ちにさせてくれるのも、本書が大変平易な文体で各企業における具体的な事例を身近に感じられるように挙げてくれているからだと思います。アメリカにいても日本にいても、毎日企業経営や職場の管理にたずさわる方々で、会社を少しでも良くしたい、現場をもっと活性化させたいとお考えの方々には特に自信を持ってお勧めしたい、そんな良質な書籍であると申せます。

*Pacific Dreams, Inc. では、「見える化:強い企業をつくる“見える”仕組み」(東洋経済新報社刊:$29.00 Each, Plus Shipping & Handling $6.00)を在庫しておりますので、ご希望の方は、お電話 (503-783-1390) または、E-mailで kenfsakai@pacificdreams.org まで、ご連絡ください。

Ken Sakai
KenFSakai@pacificdreams.org


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