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Newsletter : Issue No. 45

       翻訳トーク
2006年2月号  アーカイブ
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「翻訳トーク」 2006年2月号のごあいさつ

先週久しぶりにカリフォルニア州のシリコンバレーに出張で行ってまいりました。アメリカ西海岸のこの冬は、私たちのいる平地では雪もほとんど降らず、どちらかというと暖冬でありましたものの、雨ばかりの天候不順の毎日でありました。ですが、先週より、オレゴンでもようやく突き抜けるような青空が広がり始め、私がサンノゼに行ったときには、いたるところで、ピンクの色の濃い、アメリカ特有の梅と桜がいっせいに開花し始めていて、カリフォルニアの強い日差しのシャワーを浴びて、すでに春爛漫という風情でありました。

サンノゼ空港でレンタカーを借りて、シリコンバレーの中を走り回るのは、1年以上ぶりのことでした。思えば、昨年は一度もシリコンバレーのハイウェイを自分で車の運転をしなかったものですから、やはり土地勘といいますか、交通量の多いカリフォルニアの道を何度も間違えて苦労しながらも、訪問先のお客様に何とか辿り着き、営業やプレゼンをしてまいりました。

1990年代の後半は、主に半導体製造装置メーカーさんの営業サポートのお仕事で、毎月のようにサンノゼ界隈にオレゴンから出張していた時期がありましたが、アメリカ全体、そして本家のシリコンバレーにおいてでさえも相対的な半導体産業の地盤沈下に見舞われ、2000年代に入ってからは、私がサンノゼまで通う回数はめっきり減ってしまいました。

1990年代後半(1996年か1997年ごろ)、私が足しげく通っていたある半導体シリコンメーカーの本社工場がMountain Viewというサンノゼの北にある町にありました。その工場のほんの数ブロック先に、行くたびに巨大なビルディングが建て増しされている一角がありました。最初はあまり気にも留めていなかったのですが、そのビルディングに社名が入れられるようになると、ああこれが、今話題のNetscapeというインターネット関連のベンチャー企業の自社ビルなのか、と感慨にふけったものでした。

インターネット上で、他のコンピュータにあるファイルを閲覧(browse)でき、検索(search)することを可能とした“ブラウザー”という新しいテクノロジーを開発し、はじめて一般ユーザー向けのサービス化に成功したのがNetscape社であったわけです。当時そのNetscape社の自社ビル群が雨後のタケノコのような建設ラッシュを迎えていたころ、NASDAQへの株式公開によって、Netscape社の株価はまさに天にも上る勢いであったことを今さらのように懐かしく思い出します。

その後、ドットコムブームに世の中の趨勢が酔いしれる中、インターネット関連会社への過度な期待と過剰投資とがたたり、2000年代に入ってからITバブルが崩壊したことは、皆様にもまだ記憶に新しいところなのではないかと思います。そのころは、シリコンバレーでの生き馬の目を抜くような、飛ぶ鳥を落とす勢いはすっかり影を潜め、オフィスビルの多くは、テナントも寄りつかないような荒廃した姿をさらけ出す期間がしばらく続きました。

それがここ2年ぐらいのうちにシリコンバレーはまた見違えるような活気と繁栄とを着実に取り戻してきていることを感じます。再び、シリコンバレーに新たな息吹を注ぎ込んだのは、ほかでもない、スタンフォード大学に創業の端を発した、かのGoogleです。今回の出張でも、Googleの話は、シリコンバレーのどこに行っても、人々との会話の中に表れてきて、例えば、「Googleのオフィスは、ペットの立ち入りも自由なので、僕のワイフは毎朝我が家のペットのラブラドール犬と一緒に通勤している」のだとか、「Googleのカフェテリアには、健康的な食材を使った最高の料理ばかりがあって、しかもすべてがタダ、おまけに持ち帰りまで認めてくれる」とか、まさにオフィス仰天ストーリーのオンパレードです。

そのような大変ユニークで恵まれた独自の職場環境を創出することによって、世界各地から最も優秀な人材がまるで磁石に引きつけられるかのごとく、Googleに入社してくるとのことです。(現在、中核開発研究員の引き抜きでマイクロソフトからGoogleは、訴訟を起こされているところです。)

30歳をまだ超えたばかりである2人のスタンフォード大学院出身の若者によって創出された検索エンジンの技術をテコに、まだまだしばらくは、Googleの一挙手一投足に目が離せない状況が続くことでしょう。昨年はGoogle Earthという衛星写真を使って、地球上のあらゆる都市の様子を見ることができるサービスが出ましたが、今年は、どのようなサービスや新しいテクノロジーがGoogleから生まれるのか、やはりとても気になるところです。

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org

Pacific Dreams, Inc.
25260 SW, Parkway Avenue, Suite D
Wilsonville, OR 97070, USA
TEL : 503-783-1390
FAX : 503-783-1391


 


Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
President


翻訳事始め − 第 45 回「翻訳におけるナレッジ・マネージメント」

弊社は、アメリカ・オレゴン州にある翻訳会社として1992年6月の設立時から、英語と日本との間での単言語翻訳会社(SLV:Single Language Vendorと英語では言うのですが)現在に至るまでも基本的にSLVの形態をとりながら、コアコンピタンスとしての翻訳業務に邁進してまいりました。

SLVであるがゆえに、当初は私自身の前身であり、バックグラウンドを持つ半導体製造技術分野を中心に始めた翻訳業務ではありましたが、お客様のからご依頼を受ける翻訳文書に関しましては、どのような分野におきましても、今までお断りをしたということはほとんど記憶になく、試行錯誤を繰り返しながらも、おかげ様で今では、きわめて広範囲の専門分野にわたる日英、英日翻訳のエキスパート・カンパニーとして、皆様に広く認めていただけるまでに成長することができました。

翻訳ビジネスを長年やっていて何が難しいかったかと申し上げますと、すべての翻訳業務は、ほとんどが一回勝負のものでありまして、当たり前のことですが、同じ文書の翻訳は二度とくることはございません。つまりカタログにある製品(コモディティ)を繰り返し製造し、それをお客様にお届けするというカタログ・ビジネスとはまさに対極に位置する、すべてがカスタムメイドの究極の単品ビジネスという点にありました。

仮に半導体製造装置メーカーさんの翻訳のお仕事であっても、すべての翻訳が装置の取説(取扱説明書)のようなマニュアル翻訳だけのご依頼なのではなく、中には、特許申請の明細書であるとか、海外での代理店契約を結ぶ際の契約書、財務諸表や年次報告書など、それは半導体の分野と申し上げましても、そこには翻訳に対するさまざまな潜在的ニーズが当然存在しているわけであります。マニュアル翻訳だけの仕事を弊社ではこなしていれば、それでことが足りるというほどに単純な業務ではなかったのです。

翻訳のご依頼をされます企業のお客様側にとりましても、マニュアル翻訳はA社に出し、特許翻訳はB社に出し、契約書翻訳はC社に出しというのでは、翻訳というサービス分野だけでも3社も4社も業者が外部にあるというようなやり方をとりましては、管理やリソースとが煩雑になりすぎ、担当者の負担やコストなどもかかりすぎてしまいます。

ですから私どもが当初から目指しておりましたのは、単言語翻訳会社(SLV)としてお客様からいただくすべての翻訳のご依頼を弊社1社でお引き受けすることのできる能力を有する翻訳会社としての社内の体制作りでありました。しかしながらこの体制作りは、口でこういうほど簡単なことではありませんでした。

まず翻訳会社として弊社では、当然のことながら、外部にいる翻訳者のリソース作りから始まり、各専門分野に特化している翻訳者の方々を探し、コンタクトする作業が開始されました。おかげ様で、半導体デバイスの特許翻訳に精通している翻訳者、契約書の日英翻訳にこなれている方、企業財務に詳しい翻訳者の方と、今では、立派なリソースリストが社内では構築されるようになりました。

さらに、最近始まったことなのですが、今まで数多く手がけてまいりました翻訳文書のアーカイブ(注:文書を整理・記録して所定場所に保管すること)を専門分野ごとに整理し直し、専用フォルダの設定を行い、弊社の中にあるネットワークコンピュータのハードディスク内に専用ディレクトリを設けて、翻訳業務の履歴を構築していくというかなり大掛かりな作業に着手し始めました。

実はこの作業の思いつきというのは、やはり先月の「翻訳トーク」でご紹介をしました「見える化」という書籍の中で、ある企業での成功事例として書かれていたことからでありました。それは日本で団塊の世代が大量に定年退職を迎える「2007年問題」に対応するためにある大手建設メーカーの試みについてでした。この試みは、過去に行われた数々の建設プロジェクトのまさにナレッジ・マネージメント化、つまり知識の共有化を効果的に整理し推進することによって、若い世代にベテランの社員たちのノウハウを継承しようとするものでありました。

弊社でも会社が始まって以来、過去の翻訳文書はすべてお客様ごとにアーカイブされていただけでした。(注:弊社では、アーカイブ期間は、翻訳終了後、原則として3年間とし、3年を経過した文書は基本的にハードコピーならびに電子ファイルとも廃棄処分することになっています。)ところが、ひとつのお客様からの翻訳の中であっても先にも書きましたとおり、さまざまな翻訳文書のご依頼があったわけでありまして、それらを各分野別に整理をして、専用フォルダに入れ直すという作業がまったくなされていませんでした。

この翻訳アーカイブの再構築によって、今まで行われた翻訳文書の社内での「見える化」がそれなりに達成することができるのではないかと期待をしております。とりわけ、今後弊社で、力を入れてまいりたいと考えております、「医療装置や医療機器」や「医薬品」などの高度な専門知識を必要とする分野、そして「バイオテクノロジー」や「ナノ・テクノロジー」などの最先端技術分野にスポットをあてたナレッジ・マネージメントからの効果をこれら分野における今後の翻訳業務に対して大いに発揮することができるのではないかという希望と信念を抱いております。

これらの分野は、今から急速に発展してくる分野であるにもかかわらず、これら分野での翻訳経験のある翻訳者の絶対数が極めて不足しているという深刻な事態が実は隠されています。しかも近い将来、大量の翻訳文書が発生するのではないかということがすでに予測されていて、それらを効率的に翻訳していくためには、やはり翻訳メモリー(TM)などを有した翻訳支援ソフトをある程度活用していかなければならないものと思われます。従いまして、弊社でも過去の翻訳アーカイブを再構築し、ナレッジ・マネージメント化することによって、その来るべき翻訳ニーズへの対応を今から準備してまいりたいと考えている次第なのです。

Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org

   
 


3月日本出張のお知らせ

先月号の翻訳トークでも書きましたが、3月13日の週に、私は東京に1週間ちょっとの予定で出張いたします。今回の出張のメインは、3回にわたる都内での私の講演会です。うち2回は、一般向けセミナーとなっておりますので、ご都合がつけばぜひともご参加ください。セミナーの概要は下記の通りになります。

3月14日(火)午後2時〜5時 於:翻訳会館(東京都港区赤坂8-5-6;銀座線青山一丁目駅4番出口近く)(社)日本翻訳連盟主催 第101回翻訳環境研究会講演テーマ:「米国におけるIT・ハイテク業界向け翻訳及びローカリゼーションとウェブサイトの多言語化」お問い合わせ先:(社)日本翻訳連盟 寺田大輔様(TEL:03-3555-2905 Email:info@jtf.jp)

3月17日(金)午後1時〜5時 於:全日空ホテル東京「アリエス」(銀座線溜池山王駅近く)(株)グリーンフィールド・オーバーシーズ・アシスタンスとPacific Dreams, Inc. との共催講演テーマ:「アメリカにおける人事管理セミナー:管理者として知っていてほしいアメリカでの基本的人事管理要綱」(午前中2時間は、グリーンフィールド・オーバーシーズ・アシスタンスの小川社長からの「米国就労ビザ取得最新セミナー」を開催)お問い合わせ先:(株)グリーンフィールド・オーバーシーズ・アシスタンス 小川卓郎様(TEL:03-6230-4331 Email:greenfield@green-f.biz)


書評 − 「ブルーオーシャン戦略:競争のない世界を創造する」

W・チャン・キム & レネ・モボルニュ 著 有賀 裕子訳ランダムハウス講談社 ・2005年10月20日刊・201ページ

ヨーロッパの中にあって、屈指のビジネススクールとの誉れの高いフランスの大学院でありますINSEAD教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュ両教授は、長年、企業革新と企業価値向上についての研究に取り組んできましたが、その研究成果を「ブルーオーシャン戦略」というタイトルの単行本としてHarvard Business School Pressより出版をし、アメリカではすでにベストセラーになっているこの注目のビジネス書を今月号ではご紹介したいと思います。

本書の骨格を形成している理論は、競合他社との差別化や低コストでの価格競争、市場での熾烈なシェア争いをする既存市場のことを「レッドオーシャン(赤い海)」と呼び、多くの例を引き出しながら、この市場においては、多種にわたる製品やサービスを常に生み出してはいるものの、ライバル会社と同じ市場で競争を繰り返す限り、どのような巧妙な戦略を練ってみたところで、いずれも企業の体力をいたずらに消耗するだけで、利益が売上に対して伴っていないと述べています。

一方では、自らの新しい製品やサービスを開発し、競争自体を無意味なものにする未開拓の市場を自ら創出し、そこで利益を享受することのできる市場を「ブルーオーシャン(青い海)」と呼び、企業にとっては、ブルーオーシャンを創出する企業戦略こそがこの過酷な競争環境の中で企業が繁栄し続けることのできる必要不可欠な方法であることをやはり数多くの成功事例を通して証明しています。

本書で取り上げている成功事例は、フォードの開発した、かのT型フォード車から始まって、あまり知られていないものの、大変ユニークな活動を続けているカナダの総合芸術団体である「シルク・ド・ソレイユ」や短時間で散髪を行う「QBハウス」を日本国内でサービス展開しているキュービーネットなど、過去120年間30業界以上に及ぶ事例の調査結果に言及し、これらは、いずれも今まで(当時)は存在しなかった、まったく新しい市場を自ら創出することに成功した実例であるとしております。

さらに、著者のキム、モボルニュ両教授は、ブルーオーシャン戦略が、単なるヒット商品作りのマーケッティング論とも一線を画していることも論じておりまして、その違いというのは、企業だけにメリットがあるのではなく、お客様にも大いにメリットのある双方性の利益享受であること指摘しています。

また、本書の成功事例に出てくる企業の内部事情を細かく観察してみると、トップマネージメントから現場にいる社員まですべてが自社にある強さを理解していて、丹念に新市場の創出と開拓に情熱を傾けているということがつぶさに伝わってまいります。

この戦略は、1人のスーパーエリート社員の力だけでヒット商品をつくったり、技術革新による製品の差別化をするといっただけの戦力とは明らかに異なるものです。企業の持つ潜在的な組織力を生かしながら、地道に新しい市場を創出していくという視点は、日本企業にとってはごく自然な戦略であり、方法論であるものとして受け入れやすいのではないかと感じました。

ぜひ、本書を通じてご自身のたずさわっていらっしゃる企業の戦力についての冷静な分析をなさってみられる機会をお作りになりましたらと思い、本書を企業で働く皆様全員に広くご推薦させていただく次第であります。

*Pacific Dreams, Inc. では、「ブルーオーシャン戦略:競争のない世界を創造する」(ランダムハウス講談社刊:$36.00 Each, Plus Shipping & Handling $6.00)を在庫しておりますので、ご希望の方は、お電話 (503-783-1390) または、E-mailで kenfsakai@pacificdreams.org まで、ご連絡ください。


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