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Newsletter : Issue No. 47

       翻訳トーク
2006年4月号  アーカイブ
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「翻訳トーク」 2006年4月号のごあいさつ

今月初めに行われました CTIA Wireless 2006 という IT 関係の展示会視察のために、初めてラスヴェガスに行ってまいりました。 CTIA と申しますのは、 Cellular Telecommunications & Internet Association という携帯用通信機器とインターネットとの融合を目指す業界団体でありまして、展示社数が約 1,000 社、参加者数が約 35,000 人ということで、かなりの規模の展示会でありました。

このような大掛かりな展示会でひときわ目を引きましたのは、 Samsung と LG Electronics とであり、韓国勢が携帯通信機器業界を席巻しているのを目のあたりにしました。とにかくそのプレゼンスの強烈であること、ラスヴェガスのコンベンションセンター近くにあるホテル全体をすっぽり覆ってしまうような巨大な自社垂れ幕をかかげ、ホテルからの送迎シャトルバスもみんな Samsung か LG のロゴ入りバスばかりで、さらに大挙して押しかける韓国のビジネスマンのモーレツ振りには、本当に唖然としてしまうような気迫を感じました。

それに引き換え、日本メーカーのプレゼンスは、なんとまあおとなしく控え目であったことかというのが私の印象でした。日本国内の携帯電話とは異なり、一歩日本から外に出ると、日本の携帯電話機メーカーは、まったく精彩がありません。それはテクノロジーの内容というよりも、それらプレゼンスにかける意気込み、そして肝心かなめのマーケッティング戦略の中で完全に韓国勢の後塵を拝している感じがいたしました。

さて、 CTIA については、また別の機会を探してレポートを書いてみることにしたいと思いますので、今月号は、私自身生まれて初めて訪れましたラスヴェガスについてもう少しお話いたします。砂漠と山脈にまわりを囲まれたこの広大な土地に作られた巨大な人工の都市は、アメリカにあるどの都市ともだいぶ違ったキャラクターがそこかしこに乱立しておりまして、これがヴェガスなのかというところの私の観察したところを以下にお伝えしたいと思います。

カジノ、カジノ、カジノ …….

通称、ラスヴェガス・ストリップと呼ばれている Las Vegas Boulevard (Blvd.) 沿いにあるホテルは、どのホテルもすべてカジノの入った大規模なホテル群ばかりで、さらに建設中のホテルも 2,3 見うけられ、週末でもないのに、 Las Vegas Blvd. の人通りと車の数(特に夜半過ぎからの)には、まるで新宿や渋谷の繁華街を歩いているような錯覚にさえ陥りました。私が目にしたホテルのカジノは、どこもそこそこの盛況振りで、カジノに没頭している客人には、無料で酒類が色っぽい感じのホステスさんから支給されるということも知りました。

エンターテイメントと豪華なショー

どこのホテルでもカジノとさまざまなショーを目玉にしておりまして、そのショーを見るのも場合によってはチケットを購入するのも並大抵ではないということがわかりました。例えば、エルトン・ジョンのレッドピアノ・コンサートであるとか、セリーン・ディオン(彼女は、住まいもラスヴェガス近郊に移したのだそうです)とか、超一流のアーティストが開く豪華なショーは、年間を通じてこの街ではまったく珍しいことではないようです。そのほかにも有名どころのマジシャンやコメディアンのショー、ミュージカル、さらに大人向けのショーなど、まさになんでもござれというところがラスヴェガスにおけるエンターテイメントの真骨頂といったところではないのでしょうか。

ホテルとレストラン

カジノと豪華ショーに彩られたラスヴェガスのホテルでありますが、ラスヴェガスにきて、ベニスのゴンドラや古代ローマ式風の建造物や彫刻群をこれほど見られるというのは想定外のことでした。また、本来砂漠であった場所にかくも大量の水を汲み上げ、噴水ショーやゴンドラが浮かぶような水路をホテルが施工しているというのもちょっと違和感を覚えました。ホテルに入っているレストランはどこも、 CTIA Wireless の参加者などで大変込み合っておりましたが、出てくる料理のボリュームが半端でなく、私がオーダーしたシェフサラダときたら、洗面器並みのの大きさのディシュに山盛りに盛られた野菜とハムや卵などで、それを見ただけで、食欲が一挙に吹き飛んでどこかに行ってしまいました。(アメリカに長年住んでいる私がそう感じたのですから、本当に驚異的なボリュームであったことをご理解ください。)

結びとして

ラスヴェガスは、別名“ Sin City ”と呼ばれているようでして、確かにその別称の意味するところをふんだんにこの目で見てまいりました。(ラスヴェガスの Sin City に対して、ポートランドは、 Rose City 、私の住んでおりますセーレムは、 Cherry City 、そしてイチローや城島のいるシアトルは、 Emerald City とそれぞれ呼ばれております。)ラスヴェガスからの帰りの空路で、緑の濃いオレゴン州に入り、そしてポートランド空港に到着したときは、生身の人間の住める街にようやく帰ってきたのだなという安堵の気持ちでいっぱいでした。ラスヴェガス滞在中に丸 1 日かけてバスツアーで見に行ってきたグランド・キャニオンも確かに素晴らしかったには違いないのですが、やはり私は、ラスヴェガスには決して住めない人間だと変な納得をして戻ってきた今回のラスヴェガス出張でありました。

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org

Pacific Dreams, Inc.
25260 SW, Parkway Avenue, Suite D
Wilsonville, OR 97070, USA
TEL : 503-783-1390
FAX : 503-783-1391

 

 


Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
President


翻訳事始め − 第 47 回「 作者と翻訳者の関係 」

最近目にした日経新聞の中で、翻訳者と作者との間の距離というのか、両者の関係につきまして大いに考えさせられる記事を 2 つほど拝見いたしましたので、それらの記事にヒントを得まして、「翻訳事始め」を今月号は皆様方にお届けしたいと思います。

最初にご紹介したい記事は、「私の苦笑い」という毎週月曜日の連載シリーズになっているインタビュー物で、 3 月 27 日の日経新聞に掲載された芥川賞受賞作家の小川洋子さんの記事であります。彼女の最近のベストセラー「博士の愛した数式」が誕生するまでの苦労話を語った内容ではありますが、小説を書く者としての情理と呼んだらよいのか、小説という物語が体を成すまでの作者の微妙な心の葛藤や小説を完成させるまでの極意というものをものの見事に言い表している言葉の数々に痛く感銘を抱きました。

「物語は作家が作り出すものではなくて、世界のどこかにあってあらかじめ存在しているものだと思う。例えば、それは、はるか遠い場所にある、太古の時代からの洞窟の壁画のようなものかもしれない。そして誰かが見つけてくれるのを静かに待っている。(中略)でも本当に大変なのは、洞窟にたどり着くまでの時間だ。その場所への道順はいつも異なっていて、道に迷ってしまうことが多い。」

物語が作者に訪れる瞬間というのは、彼女にとってはまさに「潮が満ちてくるような幸福な瞬間」なのだそうです。何というアナロジー(類推)であることでしょうか。映画化され、現在映画が日本で公開中の「博士の愛した数式」は、機が熟さないうちに書き始めようとしたため、無理な人物設定をとってしまい、 1 年間はほとんど執筆が進まなかったというのです。そこで、小川さんは、物語が眠る「洞窟」にたどり着くために、何人もの数学者に取材を行い、あるとき、純粋で優しい感性を持つ、ただし記憶が 80 分しか持たないという博士が、不意に彼女の頭の中で鮮明な映像とともに立ち現れたということです。

この小川さんの記事と前後して、 2 月 18 日の日経新聞(夕刊)に載った、翻訳家であります鴻巣友季子さんの書かれたエッセー風の記事も同じように素晴らしいアナロジーを用いて、今度は翻訳をする者の立場での情理と翻訳を完成させるまでの極意というものをやはりものの見事に書き表しておりました。(以下は、鴻巣さんのエッセーからの引用)

著名なインダストリー・デザイナーで、丸いドーナツ状をした加湿器などのデザインで一世を風靡している深澤直人さんからは雑誌でのインタビュー取材の中で、「自分はデザインを造ったものではなく、“そうあるべき姿”を再現したに過ぎない。例えば、こことそことあそこにある星とを結んでごらんといわれると、急に熊やサソリの形をした星座というものが見えてくる。まあ、それと同じようなことをしているだけなのですよ。」

さらに仏像を彫る、とある高名な仏師さんは、「仏様を刻んでいるというのではなく、木の中にいる仏様を木屑を払ってお迎えするというのが私のやっていることであり、私が私がという“気負い”があるうちは、本当の仏様には出会えないものなのです。」そして、ここで当の翻訳家の鴻巣さんは、仏様を訳文として言い換えてみると、本当に自分に対してしっくりとはまってしまうのだとおしゃっております。そしてこの2つの引用は、めちゃくちゃ翻訳者魂をくすぐるもの、これらを読んでぐっとこない翻訳者はいないだろうさえと申しておいでです。

小川さんは、小説家という作者としての立場からアナロジーを用いて、物語にたどり着くまでのインスピレーション溢れる道筋を語ってくださり、翻訳家の鴻巣さんは、その道の大家の言を借りて、翻訳者としての真理を鋭く突くような道筋をやはり代弁してくれています。作者と翻訳者、それぞれの立場は違っていても、そこにある完成にたどり着くまでの苦労には似たようなところがあり、機が熟していないのにやみくもに始めようともがいてみてもうまくいかないことは、小説であれ、翻訳であれ、他のどのような仕事であっても似たり寄ったりの状況にあるということを知らしめてくれました。

しかし機が熟すまでそれらを漫然として待っているだけでは、いつまでも物事を完成させることなどとても出来ないことでしょう。作者と翻訳者は、それぞれの対岸にいて、普段はあまりコミュニケーションを取り合ったり、ましてやお互いの顔を見たりというようなことはほとんどしない間柄なのですが、小川さんと鴻巣さんとのお二人の記事を読んで、作者と翻訳者との間にあった距離が私の気持ちの中でずいぶんと狭まってきたように感じられました。

機が熟すように自分の方から積極的に働きかけ、たゆまぬ努力をし続けていく、そうすることによって、いつしか、「これはすでにあった物語でありまして、たまたま私が文字にしているだけです」」とか、「自分が翻訳をしているというよりは、作者が私にこう訳せといわれるので、その言葉に聞き従いながら、日本語にしているだけです」とか、そのようなレベルの境地に一生で一度でもいいからなってみたいものであります。

そのようなレベルを目指すのは、作者も翻訳者も立場に関係はないのだなと知らされましたので、その意味で、作者に対しての親近感がこれからは少しは違った形で出てくることを期待したいものだと思います。それはつまり文字だけによらない、むしろ文字に隠された作者のメッセージや思いまでをも、まるで作者からの指示がそこであったかのようにして読み取り、それらを作者の文章力を借りるがごとくして表現していくことが出来るような翻訳者になることができたらと思わず夢想したものでした。繰り返しますが、一生に一度でもそのような「作者と翻訳者との至高の関係」に巡り合ってみたいものです。それこそ、きっと「翻訳者冥利」に尽きる経験となることでしょう。

Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org


書評 − 「 熱狂する社員:企業競争力を決定するモチベーションの 3 要素 」
The Enthusiastic Employee: How Companies Profit by Giving Workers What They Want

今月ご紹介いたしますのは、成果主義に一石が投じられている現在の日本企業における人事考課の中で、米国でもトップクラスにある名門ビジネススクールでありますペンシルバニア大学ウォートンスクールから原書が出版された書籍です。本書は、世界 250 万人の働く人々の「現場の声」を収集し、企業や組織におけるモチベーションの本質について解明をしようと試みた壮大な考察と検証の記録であり、論文であります。

内容的には、それほど目を引くような斬新なことが特に書かれているわけでもないのですが、「社員にとって働きがいのある企業こそ、長期的な好業績を実現できる」という当然のテーマが、本書の根底に流れており、そのテーマをひとつずつ丹念に検証していこうする並々ならぬ著者たちの意気込みがページを追うごとに伝わってまいりますので、思わず引き込まれてしまいます。

モチベーションとしての 3 つのコアとなる要素として著者たちが取り上げていますのは、「公平感」「達成感」そして「連帯感」の3つしかなかったということで、自分たちの行った調査の中からその結論を下し、裏付けを取っています。統計的な数字による手法を使うというよりも、現場で働く人々の生きた声を収録しているのも本書の特徴で、数字で固められた調査結果よりもむしろはるかに読者に対して説得力を持つ書き方がなされているのではないかと感銘を受けました。

内容の視点としては、経営者の目線からのものの見方が圧倒的に多く支配して書かれてはおりますが、社内で人事に携わる方や自分で部下をお持ちの方には、大いにご参考になる箇所が目白押しです。実録されております各社それぞれの取り組み方や会社のポリシー、会社の存続危機に見舞われた瀬戸際に社員が進んで取った行動など、読み物としても十分に読者を引きつけるものが溢れています。

通常の業務を行っている中では、意識下にとどめておくことが難しいような内容も含まれているのですが、自分がなぜあの時あんなに仕事に燃えていたのか、あるいはその逆で、どうしてあの時は仕事に意義を見つけられなかったのかというような視点で読み進めてみても、きっと納得できる解を見つける道筋が本書の中に隠されているはずでありますので、リーダーたる経営者や管理職の方々のみならず、これから成長していこうとする若い方々にもぜひ一度手にとって見ていただきたい書籍としてご推薦したいと思います。

*Pacific Dreams, Inc. では、「熱狂する社員:企業競争力を決定するモチベーションの 3 要素」(英治出版社刊: $36.00 Each, Plus Shipping & Handling $6.00 )を在庫しておりますので、ご希望の方は、お電話 (503-783-1390) または、 E-mail で kenfsakai@pacificdreams.org まで、ご連絡ください。


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