翻訳事始め − 第 50 回「ウエブサイト英語化へのご提案」
先月号の翻訳事始めでは、英語化されたウエブサイトのほとんどは、単に英語に翻訳を施しただけのサイトとなっていて、実際に海外の人々が見る際には、必ずしも親切な内容にはなっていないということを書かせていただきました。今月号では、その続きといたしまして、どうしたら英語化したウエブサイトが、海外の顧客や市場に対して、親切で、より効果的なメッセージを伝えることが出来るような内容とすることができるのかという点につきましてお話してみたいと思います。そうすることによって、ウエブサイトの英語化が単なるコストの支払いだけで終わるのではく、有効な投資となることが出来るようなヒントやアイデアを盛り込めたらと願っています。
本来ウエブサイトが持つ性格として、いろいろな要素がありましょうが、第一義として言えることは、やはり PR としての要素、あるいは、マーケティングやセールスとしての効果を持つものとしての定義付けであるように思われますが、この考え方に異論はあまりないでしょう。ですから、英語化されたウエブサイトのページも同じように、このような定義付けに当然合致していることが要求されるわけです。しかしながら、日本語サイトを直訳された英語サイトでは、残念ながらそのような PR やマーケティングとしてのサイトが持つ従来の訴求力を十分に発揮しているとは言い難い状況に陥っているのが現実ではないでしょうか。
現在行われているウエブサイトの英語化プロセスの 99% は、日本語サイトを翻訳する(「直訳」するといっても過言ではないと思いますが)プロセスだということを先月号でも申し上げました。このプロセスを繰り返している限りにおきましては、海外の顧客や市場に対して十分な訴求力を持つ英語サイト構築の実現は、きわめて多難な道のりではないかと申せます。私の提案といたしましては、まずは日本語でよいですので、海外向けのウエブサイトに載せるメッセージを新たに書き起こし、あたかもまったく新しいウエブサイトを作成するような意気込みで、英語サイト構築の第一歩をまずは踏み出してみるということであります。
先にも書きましたように、ウエブサイトが持つ性格は、 PR やマーケティングの目的にありますので、マーケティングの基本中の基本であります、「マーケティングの対象は誰なのか」というところに収斂してくるわけです。日本語で作られた日本語サイトの対象者は、当然ながら日本人です。それでは、英語サイトは、海外の英語圏に住む人々を中心とした広範囲にわたる対象者となりますが、それでも、企業の海外営業展開の方針として、仮にアメリカ市場に最も営業資源を集中するということでありましたのなら、アメリカ人を対象とした英語サイトを英語で構築するのが最も理にかなった方策であるといえましょう。
アメリカ市場あるいは、アメリカ人を対象にターゲットを絞るということが全社的に決まれば、あとは、アメリカ向けの紹介文や宣伝文句、製品やサービスを選択してウエブサイトの枠組みを決めていきます。推薦できるアイデアとして申し上げてみたいことは、ここで日本語のウエブサイトと同じウエブサイトアドレス( URL )を使うのではなく、あえて英語だけの専用 URL をこの際一気に立ち上げてみるということです。そうすることによって、日本語のサイトには直接的な影響を受けない、独自の英語サイトを構築できるチャンスが生まれてまいります。サイトのデザイン自体も日本語のものとはまったく変えて再構築してみるのもよいことではないかと思います。
英語サイトを独自でつくるのであれば、いっそう思い切ってアメリカにあるウエブデザイン会社を採用し、新しい URL やドメインネームもアメリカで取得し、サイトの運営ならびに更新やメンテナンスなどをアメリカでやってみるということもご提案の中にオプションとして付け加えておきたいと思います。英語サイトをアメリカで作るということになれば、さらに日本語サイトから受ける影響は少なくなりますし、アメリカ人の持っている嗜好やカルチャーも新しいサイトの中に十分織り込むことができます。そしてサイトのデザインや色使い、機能などを斬新にアレンジし直すことが可能になります。(ちなみに弊社 Pacific Dreams, Inc. では、優秀なデザイン関係のスタッフが社内におりますので、そのような対応やサービスを日本のお客様にご提供することが出来ますので、いつでもお気軽にご相談ください。)
それでは英語サイトに掲載する本文の内容はどのように考えてみたらよいのでしょうか。これは別途、新しく日本語の文章から創造すること最初のステップが始まるということを書きました。次に来るステップとしてこの新しく作成した日本語の文章を英語化する必要がありますが、ここでご提唱したいのが、 VATE (Value Add Trans-cultural Editing) という新しいコンセプトです。このコンセプトは、日本の著名な国際異文化経営支援コンサルタントであります、冨永信太郎先生がご提唱されているものです。冨永先生が今年の 4 月に日本からわざわざ弊社をご訪問してくださいました際に、社員全員で冨永先生からじきじきにこの VATE の講義を直接お聴きいたしました。正直申し上げまして、当初は、翻訳と VATE との間での明確な区別がはっきり認識できなかったのですが、ウエブサイト英語化についてのこの記事を書き進むにつれて、まさにウエブサイト英語化に必要なのがこの VATE のプロセスであるということが私たちスタッフの中で明確に認識できるようになりました。
私が解釈し、特にこのウエブサイト英語化で必要なプロセスは、 VATE の E でありますところの Editing のプロセスであります。アメリカ人にターゲットを絞って書かれた日本語の文章を英語に翻訳しただけではやはり、とても十分とはいえないのです。翻訳が終わった後に行われる VATE 、つまり、 Editing が英語化されたウエブサイトに命を与えて、 PR 効果の高い訴求力のあるサイトにしてくれるのです。 VATE についてご説明できる紙面がもう残念ながら今回は残っておりませんので、また来月号の翻訳事始めで、この VATE につきましては、そのコンセプトをはじめ、詳しいプロセスなどについてご紹介をさせていただきたいと思います。
Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org
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