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Newsletter : Issue No. 51

       翻訳トーク
2006年8月号  アーカイブ
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「翻訳トーク」 2006年8月号のごあいさつ

昨年 2005 年度の統計で、海外で仕事のために長期滞在する日本人数が、中国がはじめてアメリカを抜いてトップに出たという記事が最近の日経新聞に出ておりました。いまや中国には、 6,5000 人を超える日本人が滞在しているということで、アメリカにいる日本人数の約 5,5000 人をすでに 10,000 人ほど上回っているということです。アメリカにいる日本人 55,000 人も前年比では減少傾向にあるということで、日本の本国同様、アメリカでも日本人の数はこれから毎年減少していくような兆候になってきている模様です。恐らく、年々中国にいる日本人の数との間の乖離現象が顕著になっていくように思われます。

気になりますのは、アメリカにある日系企業の数そのものも、減少傾向となっているのかどうかという点です。私のところにはそのような統計資料が手元にはありませんので、正確なところはわからないのですが、いずれにいたしましても、日本人の数が全体的に減っている中で、日系企業がその活力を維持し、さらにアメリカのビジネス界・産業界の中で発展していこうとしていくためには、日本人社員の実力アップや経験の積み重ねもさることながら、現地アメリカ人社員の採用や育成が会社の将来を決めるほどの決定的な要素になってくるのではないかということが言えるのではないかと思います。

昨年 11 月に 96 歳になられるのを目前にして亡くなられた、 20 世紀を代表する経営学者の大家であります、故ピーター・ドラッカー氏は、「 21 世紀は、インテレクチュアル・キャピタリスト(知識主体の資本家)がファイナンシャル・キャピタリスト(金融主体の資本家)より優位に立つ」という箴言を残しています。お金によるところの資本の優位性が薄れていく反面、人の知識によるところの人的資本は、益々その重要性が増していくであろうとする碩学による卓見でもあります。

弊社では、この 9 月の 13 日から 3 日間、「最新・経営技術セミナー」と題しまして、アメリカで働く日本人社員向けセミナーを 3 つ、そして日系企業または日本企業と取引関係にある米国企業で働くアメリカ人社員向けセミナーを2つそれぞれに弊社ビル内にあります会議室を使って開催いたします。単純ではありますが、 ”Knowledge is Power” という フレーズを用いて、アメリカにおいでの皆様方に経営の核心(コア)部分に関するセミナーのテーマを選び、さらにそのテーマに最もふさわしいセミナー講師の先生を国内外から選びまして、綿密な企画を立ち上げてまいりました。

さらに、翻訳者の皆様にも今回特別企画といたしまして、「翻訳者のための英文契約書の理解と契約書の基礎知識」というテーマで、 9 月 16 日(土)に弊社会議室と Skype (スカイプ)とを使いました遠距離通信セミナーも開催することになりました。それぞれのセミナーのご紹介につきましては、今月号の「翻訳トーク」の後半部分でさせていただきますので、ぜひセミナーの詳細についてご覧になってください。

アメリカにおりますと、日本では頻繁に開催されますような外部のセミナーや勉強会などに参加できる機会というものは極めて限られてしまいます。しかも、日本の皆様、日本とのかかわりを強くもたれておりますアメリカ人の皆様を対象としました、日本語または英語によるそれぞれのセミナーや勉強会というものは、きわめて貴重な機会になるのではなかろうかと考えておりまして、そのような機会の一端をご提供させていただけましたらというのが、私どもの大きな願いのひとつでございます。皆様からご賛同とご理解とをいただき、セミナーにご関心を持っていただけますことを心から願っております。

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org

Pacific Dreams, Inc.
25260 SW, Parkway Avenue, Suite D
Wilsonville, OR 97070, USA
TEL : 503-783-1390
FAX : 503-783-1391

 

 


Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
President


翻訳事始め − 第 51 回 「 VATE について」

ウエブサイトの英語化についてすでに 2 回に渡りまして、お話させていただきました。先月号では、いかにしてウエブサイトの英語化が有効な投資になるかを検証してみましたが、その方法論、つまりは核心部分はといいますと、言葉だけをご紹介させていただきましたが、 VATE (Value Add Trans-cultural Editing) というコンセプトになります。日本の著名な国際経営コンサルタントであります、冨永信太郎先生がご提唱されている VATE を直訳すれば、「付加価値異文化横断的編集」というような意味付けになろうかと思います。私はいまだ冨永先生門下の末席を汚している山門の小僧的な立場にありますので、 VATE をどこまで正確に解釈し、この場を借りて皆様にご説明できるのか不安がよぎるのではありますが、 VATE の理解とその普及は今後、ウエブサイトを英語化し、それが有効な投資であるとしていく上では欠くことの出来ない至上命題的な条件になるものと考えておりますので、あえてご紹介させていただき次第です。

日本から海外へ技術移転をしなければならないという際に、まず最初に手がけることは、日本で作成された設備や装置の仕様書、プロセスの作業標準書(英語では、 SOP : Standard Operational Procedure と呼ばれることが多い)、品質管理や工程検査のマニュアル、装置のオペレーションやメンテのマニュアルなどを英語化すること、つまりは翻訳するという作業が発生してまいります。私も 10 年以上前に当時の三菱シリコンアメリカ(現: SUMCO America )に在職していたときには、三菱の社内で日本から送られてきましたさまざまな文書の翻訳をやっていたときがありました。例えば、日本で作られました作業標準書を英訳したものが、アメリカのオペレーションで実際に即使い物になるかといえば、決してそうではなかったのです。それは、日本から導入した設備や装置をそっくりそのまま使うという前提や条件下にあっても、作業標準書については、単に日本語から英語に翻訳したものだけでは現場では話にもなりませんでした。

翻訳したものは、“たたき台”としては十分価値のある資料文書であったのですが、アメリカでのプロセスに使える英語的な表現やさまざまな詳細にわたる微調整は、 QA 部門のアメリカ人のエンジニアならびにテクニカル・ライター、そして私を入れた 3 人で英語の作業標準書を一つ一つ共同で構築していったものでした。それは例え、装置が同じであっても工場が違うために、ユーティリティ(用水)の位置するところが違うため、水やエア、そしてケミカルなどの配管や供給が微妙に違うがために、やはり装置にも影響がありましたし、そのおかげで作業手順にも安全面や環境面での影響する要素が発生し、日本と同じような手順ではうまくは行かないことがたびたび出てまいりました。このような微調整は、アメリカの現地で現場にいる人間が 3 人同時にいたから修正可能であったわけです。つまり、日本でどんなに優れた翻訳者の方がいて、精微な翻訳をなさったにしても、アメリカの現場で使えるような作業標準書は翻訳しただけでは決して生まれてこないということを自ら体験したのでありました。

VATE とは、まさに QA の人間とテクニカル・ライターとそして私とが同時に現場に赴いて協議と検討とを重ねながら、作り上げたそのプロセスそのものをさしているような気がしております。現場にいる人間による検証が必要でありますし、その検証した内容を正確に文書に残せるライターやエディターの能力が必要だと思います。当時テクニカル・ライターは、地元の大学院で MBA を学んでいた人をテンポラリー・スタッフとして採用し、新工場の新しいプロセスでの作業標準書を作り上げるときの期間だけに手伝ってもらいました。 VATE として第三者的にかかわりを持ち、有効な共同作業ができるのは、まさしく彼のようなテンポラリー(またはコントラクターとして)のテクニカル・ライターであると思います。 VATE の E は、 Editor (編集者)からの頭文字を取ったものですので、必ずしもライターである必要はなく、すでにたたき台として翻訳された作業標準書を現場により適した標準書にするための Edit (編集)作業をしてくれる人であればよいわけです。

そしてこの作業で特に重要であることは、 Edit をしてくれる人間は、日本語の能力を持っている必要はまったくないということです。彼あるいは彼女が持っていなければならない能力というものは、卓越した英語の Writing Skill であると申せます。もちろん、現場やプロセスをよく理解し、それを忠実に文書に反映させることができるという能力も欠かせません。このようなスキルのある人間によるプロセスを経ることが VATE の本質ではないかと私は考えております。このような人間をどのようにして見つけるか、あるいは育てるのか、それは組織にとりましてはやはりひとつのチャレンジであるかもしれません。しかしそのような VATE というコンセプトを持ち、 VATE を社内のシステムの中に取り入れるということをすれば、そのようなスキルの持つ人間は必ず育ってくるように思います。

今回は、使用させていただきました実例がウエブサイトではありませんでしたので、話がウエブサイトの英語化から作業標準書に摩り替ってしまいましたが、ウエブサイトの英語化でも VATE の技法は同じく適用することが出来るということはお分かりになっていただけるのではないかと存じます。 VATE を社内システムの中で構築するお手伝い、あるいは、 VATE を社内で実行していくことの出来る人材の発掘や育成などを弊社でも新規に提供が可能なサービスとして今後事業化していくことが考えられます。それまでには少なくとも、言うまでもないことですが、私自身も冨永先生から VATE に関して、山門の小僧から脱却し、一番弟子になれるように精進を続けていなかればなりません。 VATE はかように大変奥が深く、社内の文書化プロセスや技術移転、さらにウエブサイトの構築に応用することの出来る根源的なコンセプトであり、 VATE の指導や人材の育成はまさに次代のコンサルティング事業になるものと考えています。

Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org

 
 
 

娘のこの夏

1985 年 8 月 1 日生まれの娘は、この誕生日で満 21 歳になったところです。日本では、二十歳になるのを成人として、市町村を挙げてお祝いをしますし、 1 月の第 2 月曜日は、成人の日として国民の祝日にも指定されています。ところが、アメリカでは、成人の日などという祝日もなければ、二十歳になったことをお祝いするという習慣もないということを娘の誕生日を通して経験して知っておりました。(私の母が、それでも日本から娘の二十歳の誕生日には、お小遣いを娘のために送金してくれましたが)

そうなのです、日本の二十歳のお祝いに当たりますのが、アメリカでは 21 歳の誕生日でありまして、 21 歳になりますと、お酒も合法的に飲めるようになるし、ということで日本よりも 1 歳遅れになるのですが、大人の仲間入りを堂々と果たすことが出来る年齢だということをいまさらながらに認識しました。そのために、娘の 21 歳のバースデー・パーティは盛大に催されましたことは、皆様の想像にも難くないものかと存じますが、実際、親の方はすっかり体力を消耗させられましたが、そこそこ盛大に行いました。妻から買い物リストをもらって、街のショッピングモール内にある、パーティ・デポというパーティ専門のアウトレットに行くのですが、やはり 21 歳にちなんだ、風船やペーパーナプキン、フラッグなどなど、あるはあるはで、 21 歳のバースデー・パーティ用に連なるアメリカの商魂もけっこうたくましいものだと感心させられました。

さて、誕生日を終えた娘の次の一大イベントは、 9 月からイタリアのローマに行き、 3 ヵ月半、ローマにあるテンプル・ユニバーシティというフィラデルフィアに本部があり、世界の主要都市に分校を設けているアメリカの大学で、美術(主に油絵と彫刻)の勉強のため留学するということです。先週、ようやくサンフランシスコにあるイタリア領事館からビザスタンプの押された彼女のパスポートが戻ってきたので、これで正式に行けることになったねと一安心しているところです。(ビザがなかなか送られてこなかったため、手続きに落ち度があったのではないかと、親バカな者ですから私もちょっと内心穏やかではなかったのでした)

私も大学生であったとき(今考えてみれば、当時やはり 21 歳のときでした)、アメリカの大学(ワシントン州チニーという田舎町にある東ワシントン州立大学)に 3 ヵ月間の英語語学留学をしたことがあり、親の心配などをよそに大変充実したアメリカの大学生活を思いっきりエンジョイした経験がありましたので、娘がイタリアに行きたいと言い出したときも、我が身の経験と私の親がしてくれたことを省みて、娘の願いをだまって承諾するしかありませんでした。

娘のローマへの出発は 9 月 4 日で、帰国は 12 月 17 日ということで、その間、ヨーロッパなどでテロなどの危機的事件が起こらないことだけを祈っています。心配性の妻は、 9 月下旬に娘に会うためにローマに観光を兼ねて行く予定です。私は、時間とお金がないので行きません(行けません)が、絵画や彫刻の本場の雰囲気と歴史を娘とともに満喫してきてほしいと願っています。その代わり私は、 8 月 29 日に娘と一緒にマリナーズとエンジェルスの試合をシアトルのセーフコ球場まで見に行きます。久し振りの大リーグの観戦、娘も私も今から大変楽しみにしているところです。

書評 − 「豆腐バカ世界に挑む」
"They Call Me 'Mr.Tofu'"

先日、ポートランド南部の Tualatin (チュアラティンと発音)市にあります、 Pacific Nutritional Foods 社( PNF )をご訪問し、工場長のタイガー堀井氏にお会いしてきました。 PNF 社は、日本の森永乳業(株)の子会社 Morinaga Nutritional Foods 社(カリフォルニア州トーランス市)とオレゴン州の Pacific Foods 社の合弁会社で、 ( アメリカにお住まいの日本人の方には ) お馴染みの“ Mori-Nu Tofe ”を製造している清潔で最新鋭の豆腐製造工場です。堀井氏とのお話の中で、 Morinaga Nutritional Foods 社、初代社長の雲田康夫氏が書き下ろして、つい最近出版されました本書「豆腐バカ 世界に挑む」をご親切にも私に進呈してくださいました。堀井工場長には、今月の「翻訳トーク」で早速書評としてご紹介させていただきますという約束をその場でさせていただきましたので、今月は、 Mr. Tofu こと、雲田氏の汗と涙と感動のドキュメンタリータッチによるアメリカ商売物語です。

今でこそ、アメリカの主なスーパーマーケットには、森永乳業が開発した無菌包装パック(英語では、 Aseptic Pack といわれる)に入った 12 ヶ月(開発当時は 10 ヶ月)室温で長期保存が可能な Mori-Nu Tofe が「野菜売り場」で陳列されているのはごく普通に見るスーパーでの馴染みの光景となりましたが、それまでに雲田氏がアメリカで一般消費者に豆腐を知らしめようとして、マーケティングと販促に聞きしに勝る情熱とロマンとを傾注してこられた、本書にあるような営業努力と経営努力は、本書を読むまで知る由もありませんでした。(弊社は、 PNF 社の工場立ち上げ時からお仕事をさせていただいていたにもかかわらず、でありましたので、誠に恥ずかしい次第です。)

雲田氏のアメリカでの豆腐ビジネスに賭ける情熱と熱意が本書すべてのページの行間に脈々と波打って、その汗の匂いや涙の大きさまでが伝わってくるような文章にまずは圧倒されてしまうのですが、随所に苦しい中でもユーモアの感覚を忘れずに、それでも本人は感情を抑えながらも、アメリカで豆腐がなぜなかなか一般消費者に受けいれられないのかを冷徹な視点で分析をしているのも見事というほかないと思わずにはいられませんでした。しかも、本書を読めば、アメリカに進出なさっている多くの日系企業様の方々にもアメリカでの日系企業が取るべきアイデア一杯のマーケッティング手法や企業経営方針が随所にちりばめられておりますので、これはもう立派な経営実務書とお呼びしてもよい実践的レベルの内容であるかということも間違いなく言えるかと思います。

人口減少化時代を迎え、消費の成熟と国内市場の頭打ち現象が今後確実に現実の切実な問題となってくる日本の中で、国内市場だけにとどまって商売をされてきた企業には、大変参考になると同時に、多くの日本の中小企業に対してもひとつの今後進むべき道しるべを投げかけてくれているような気がしてなりません。とりわけ、日本の食品メーカーや伝統的製造業者の方々には、最も近いところで、雲田氏の目線が即刻役に立つのではないかと自問するのはきっと私だけではないだろうと考えます。

雲田氏のアメリカでの豆腐屋商売に賭けるモーレツぶりには本当に脱帽されますが、会社の従業員との関係ではかなりの鬱積や不満があったことも率直に書かれておりまして、これはむしろ反面教師として受け止めておかれた方がよいのかもしれません。アメリカでの社員へのコミュニケーションや活用方法は、雲田氏の豆腐への情熱ほどは伝われず、むしろ空回りをしていたところもあったのかなとも思います。ことほどさようにアメリカで、経営の中で人を使いこなしていくことの難しさという点が裏表なく、よく書かれているのも感心しました。本書を読んでいてもこのようなところにどうしても最初に目がいってしまうのは、私が日頃から人事管理コンサルティングを日系企業の皆様にご提供しているからということなのでもありますが。

とにかく、久し振りに釘付けになって一気読みさせられた書籍でした。アメリカで企業経営をなさっている方、幹部社員の方々、日本にいて経営や営業のヒントを探しあぐねている方々にとりましては、必読の書として情熱を持ってお薦めさせていただきます。

*Pacific Dreams, Inc. では、「豆腐バカ 世界に挑む」(光文社ペーパーバックス: $18.00, Plus Shipping & Handling $6.00 )を在庫しておりますので、ご希望の方は、お電話 (503-783-1390) または、 E-mail で kenfsakai@pacificdreams.org まで、ご連絡ください。

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