「翻訳トーク」 2006年9月号のごあいさつ
#-A- 様:
今月は、弊社でいくつかのセミナーを日本人向け、アメリカ人向けとそれぞれに開催いたしました。弊社の PR不足であったせいもあり、セミナー参加者数は、期待したほどには集まらなかったのが残念でありましたが、行いましたセミナーそれぞれは、本当にクオリティの高い、参加した皆様の求めていたレベルか、それ以上のご期待さえも上回るような内容ではなかったかと密かに自負しております。
アメリカにある日系企業は、純粋なアメリカ企業と比べて、一般的に従業員に対してトレーニングや研修にかける予算が少なく、トレーニングも OJT(On the Job Training)がほとんどであるということを以前にコラムで書いた記憶がございます。いわゆるクラスルーム(座学)方式のセミナーやトレーニングがあまりなされていないというのが、日系企業では実情のようです。(もちろんそうではない企業様もたくさんのありかと思いますので、あくまでも一般論としてお聴き流しください。)特にマネージメントに関するクラスルーム方式のトレーニングは、日系企業では著しく不足しているように私には感じられます。それでは、アメリカ人のマネージャークラスの人間に提供するようなマネージメントのトレーニングとはいったいどのようなものを指していのでしょうか。
私は特に日系企業の場合でありますと、言葉や文化の違う日本人とアメリカ人との間で起こるコミュニケーションの食い違いや誤謬が頻繁に発生いたしますので、マネージャークラスにはやはりコミュニケーションに関するトレーニングを定期的に提供するのが重要ではないかと考えています。弊社でも異文化コミュニケーションのセミナーを特にアメリカ人向けとして、 "Building Bridges between the USA and Japan"というタイトルで何度も開いてきております。今後は、日本人駐在員向けとしてもそのようなセミナーを日本語で新しく提供してまいります(11月上旬に新しいセミナーを開催予定)。
さらに最近知り得た心理学の手法との劇的な出会いから、人間それぞれが持つ、パーソナリティ・タイプの違いを知り、理解することからよりチャンネルの合ったコミュニケーションが可能となるということを知りました。これはまさにマネージャーには本当に必要なスキルになります。これは、 1970年代にアメリカの臨床心理学の碩学、テービー・ケーラー博士(Taibi Kahler, Ph.D)によって見出されましたPCM(Process Communication Model?)という6つの異なるパーソナリティ・タイプに基づく、心理学でいう交流分析(Transactional Analysis)の手法によるコミュニケーション・チャンネルの解析を行ったものです。
私は心理学についてはまるっきりの門外漢でありますので、これ以上の PCMに関する詳しいお話はここでは差し控えたいのですが、コミュニケーションはそれなりのトレーニングや研修を積むことなしには、経験を積めば自然に上達していくようなものではないということなのです。恐らく、PCMを知っているか知らないかでは、コミュニケーション・スキルの関して、雲泥の差が発生してくるような気がいたします。アメリカやヨーロッパ、そして日本にはPCMのトレーニングを提供することのできる資格を有するトレーナーがいて、その専門のトレーナーからマネージャークラス向け(あるいは一般向け)のセミナーを受けるわけです。アメリカで最初にこのPCMを取り入れたのが、ほかでもないNASA(米国航空宇宙局)であったと聞いています。
また、今回某日系企業様の開発( R&D)部門のエンジニア向けの社内セミナーを日本から冨永信太郎先生(フェローアカデミー講師)をお呼びして行いました。冨永先生の持たれている「空気論」は、日本企業の組織、ならびに集団の持つメンタリティを理解していく上で、大変深遠な理論と解説とがそこにはありまして、出席したアメリカ人エンジニアの方々は、初めて日本人の持つミステリアスな部分にかかわる深層に触
れたと感じていただいたようでありました。ケーラー博士の PCMも冨永先生の「空気論」も人間の持っている(目には見ることのできない)個人あるいは集団の気質を体系化するという作業において、まさに金字塔的な業績をもたらしてくれているのではないかと深い感銘を覚えました。
マネージャークラスのトレーニングに費やすコストは、「コスト」と考えてしまえば、節約する方向につい走ってしまいがちですが、人的投資いう「投資」で考えれば、おのずと予算の立て方や使い方も違ってくるはずです。アメリカの多くの企業は、日本で考えられている以上に社員、特に管理職へのトレーニングをきわめて重要な「投資」として位置付けし、さまざまなトレーニングを社内そして社外で提供しています。その辺の「投資」でもアメリカ企業の後塵を拝することにならないように日本企業、特にアメリカにある日系企業の奮起や計画に今後は期待してまいりたいと思います。
Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org
Pacific Dreams, Inc.
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