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Newsletter : Issue No. 60

       翻訳トーク
2007年 4月号  アーカイブ
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「翻訳トーク」 2007年 4月号のごあいさつ

先週から今週初めにかけまして、アメリカでは重く垂れ込めたような空気の中で、本当にやるせない1週間の時間があわただしく過ぎ去っていきました。ほかでもない、バージニア工科大学 (VT:Virginia Tech Institute) で起こった、32名の尊い命を奪ったアメリカ史上最悪の無差別銃乱射事件のことです。

一番最初に今回の犯人はアジア系の学生らしいという未確認情報がニュースで伝えられた中では、日本人を含めて、アメリカにいるほとんどのアジア人が体中に悪寒が走るような戦慄を覚えたのではないかと思います。韓国出身の学生が犯人であったから、アメリカに住む日本人は安堵したなどとはとても言ってはいられない状況であったことを感じます。それは韓国人も日本人も皆アジア人(系)だという名称においては、アメリカにいればひとくぐりにされるのであって、同じ人種グループに属するマイノリティ(少数民族)であるからなのです。

しかしながら、今までのところでは、韓国の政府当局が当初大変危惧していたような在米韓国人に対する軋轢やバッシングなどはアメリカ国内においてまったく起こっていません。同じくアジア人に対する差別的な見方やメディアなどでの偏った報道なども出てきていません。そしてこれは不思議なことなのですが、当然出てくるだろうと思われた銃規制に関する意見や議論も今のところ驚くほど静かで目立たないものばかりです。

考えてみれば、これは少しステレオタイプ(紋切り型)的な見方かもしれないのですが、アメリカに住むアジア系の移民は、押し並べて勤勉で、一般的に両親はアメリカでの十分な学歴や語学(英語)力がないがために、低賃金での重労働にも耐え忍びながらも、子供にはできる限りの(高等)教育を施すというのが、すっかりアメリカ社会の中においてさえも定着したイメージとなっています。今回は、そのようなイメージにしっかりあてはまるアジア(韓国)系の家庭で育った学生が引き起こした途方もない大殺戮であったわけで、ある種、アメリカ人も何と言って表現してよいかわからないほど言葉を失ってしまった感があります。
銃規制の方は、大きな選挙戦が近づくと論争の一つになってはいたのですが、こと911以降は、この銃規制の論理や主張は、大幅にトーンダウンしてしまい、目に見えないテロの恐怖をたくみに引用して、銃規制どころか、銃容認論の方が幅を利かせてきた背景がありました。しかし、今またこのような銃による惨劇が起こったところで、いったいどのような変化がアメリカの世論の中で生まれてくるのか、今は誰しも固唾を呑んで見守っているところというのが偽らざる状況なのではないでしょうか。

銃を持つことはアメリカの国(連邦)の憲法に定められているので、これを大きく抑制するということになりますとアメリカの憲法そのものの大改正を加えるということになります。これは、アメリカの建国や西部開拓の歴史などからしても、確かに現実的なことではありませんので、論点はあくまでも銃の規制をどこまでするのかというところに焦点が絞られます。
アメリカでは驚くことですが、いまだにいくつかの州では、18歳以上で合法的にアメリカに住む居住者であれば誰でも、IDだけを見せればその場で銃を買うことができます。これに対して何ら異論を挟む余地がないような雰囲気がアメリカの内陸部の州に行くほど顕在化しているのです。ちなみにオレゴン州では、一定期間を置いて、

犯罪歴などがないかどうかの身元調査を行い、すべて“白”という場合にのみ銃の販売がはじめて許可されるという州法が制定されていますので、銃規制の関しては、厳しい政策を採っている州であるということがいえます。

今回の惨劇のように、メンタルヘルス上の異常が見られた精神病歴の過去を持つ人間がインターネットを介して銃の購入を試み、銃の引渡しに関しても銃砲店で何ら疑いの余地さえかけられなかったのであれば、このような惨劇はいつかまた繰り返すであろうと言わざるを得ません。銃規制の論争は、来年に迫ったアメリカ大統領選挙でもひとつの焦点になろうかと思われます。各候補がどのような立場でどのような論争を挑んでくるか、悲劇を繰り返さないためにも、討議(ディベート)の真剣勝負が今後展開されることをあえて期待してみたいと思います。

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org

Pacific Dreams, Inc.
25260 SW, Parkway Avenue, Suite D
Wilsonville, OR 97070, USA
TEL : 503-783-1390
FAX : 503-783-1391

 


Ken Sakai
Pacific Dreams, Inc.
President

翻訳事始め - 第60回「世界に通じるメッセージ」

ここのところの世界的な円安基調、アメリカでのガソリン価格の大変な高騰や金利の高止まり状態、それに伴う深刻なインフレへの恐れが頭をもたげ始めてきています。今はちょうど、従来の化石エネルギーの大量燃焼から起こる環境問題(特に地球温暖化問題)の世界的な懸念と今後期待が高まる代替エネルギーの台頭のちょうど踊り場的局面にあるのでしょうか、世界経済の指標となるべき数字や経済現象に変化の兆しがいくつも現れつつあります。

このような状況下で、日本が持つ高度な技術や省エネ製品ならびにきめ細かなサービスなどは世界の中で貢献できる比重がもっと増していくように思えてなりません。しかしながら日本国内では大手企業の名前を欲しいままにしているような一流企業であってもひとつ国外に出ればほとんど知名度がない企業というのも実は珍しくありません。世界はまだまだ優秀な日本企業の多くを知らないでいるということをここアメリカ西海岸に私は長年おりまして痛いほど感じてきております。

インターネットならびにその検索技術の発展によって誰でもが世界で簡単に企業情報や製品情報を得られるようになりました。しかし技術とその利便性がこれほど発展したにもかかわらず、そこに最後まで立ちはだかるのが言葉の壁であります。人工知能に基づく自動翻訳システムは、今世紀後半以降にならなければ実現化できそうにありませんので、会社のホームページが日本語だけのままでは、基本的に日本人以外のホームページへのアクセスは最初から排除されているも同じことになります。

日本がさまざまな意味で世界に今まで以上に貢献していくためには、持っている情報をまずは世界中の人々にアクセス可能にすることが最初のステップになるかと思われます。その窓口がホームページであり、それを英語化することが世界へのアクセスを飛躍的に押し広

げてくれます。そこでまずは、ホームページの翻訳ということになりますが、日本語で作られたホームページをただ右から左に英語のするのではなく、世界の人々に向けたメッセージを日本語で書いてみるところから始められることをお薦めしたいと存じます。

次に日本語のホームページのどの部分を英語に翻訳するかを絞り込み、必要なところは新たに日本語で書き加えて、日本人以外にも判読可能なように日本語を作りこんだ上で英語にしていくべきなのではないかと思います。普通このような作業をしないで、現存する日本語サイトの文章をそのまま翻訳するものですから、翻訳されて出てきた英語の文章は海外の人々にとってはきわめて理解しにくいものになってしまっております。

それらをネイティブの人間を使って編集作業をさせますと、今度は日本人にはピンとこない英語表現が使われたりするということになりますと、依頼側のクライアントのメンツなども絡んできて、日本人にもよくわかる英語にあえて変えられたりすることが出てまいります。それらが、海外の人間にも十分理解できる英語表現であればよいのですが、得てして日本人しか理解できないようなジャパニーズ・イングリシュであったりすることも日常茶飯事の状況です。

ホームページの英語化するような作業で申し上げられる問題点は、他にも同じように、会計年度ごとに出されるAnnual Report(年次報告書)の英語化でも指摘することができます。日本の株式市場にもいまや世界中からの投資家が投資先を探して集まってくるわけですから、海外の投資家に対して英語になったAnnual Reportを一般開示し、配信することは企業(特に上場企業)としてのきわめて重要な説明責任となるかと言えましょう。

アメリカでは、投資家の“いろは”として、Annual Reportに載せられてある社長(CEO)からのメッセージに着目し、冷静な現状分析と会社の将来的な戦略が具体的に書かれてあるようなトップを持つ企業に投資することが賢明であるということが投資の指南書など

にはよく書かれてあります。日本企業の社長の挨拶が不明瞭で、何を言いたいのかわからないような英語で書かれてあれば、日本では名のとおった優良企業であっても海外の投資家からは見向きもされなくなる心配が実際に起こることになるのです。

それは恐らくもともと日本語で書かれたトップ自らの挨拶の言葉自体が日本語で読んでもクリアではなく、判然としないものであれば、それを翻訳しただけであれば、判然としない英語でのメッセージになってしまうのは、火を見るより明らかです。ことほどさように翻訳だけでは、うまくメッセージが伝わらないことが多いのです。それを翻訳者のせいにされても、何の問題解決にも寄与しません。

世界に通じるメッセージをまずは日本語で書いていただき、翻訳を通じて英語化していく作業がそこになされなければ、メッセージがうまく通じるはずがないのです。文章の書き方が上手いとか下手とかいうよりは、やはりメッセージの中身の勝負であって、企業のトップとしてお客様や株主に何を伝えたいのかという根本的な問いかけであると思います。日本語で世界に通じるメッセージをまずは構築していただければ、メッセージ性のある英語表現はおのずとついてくるのではないかと考えています。

Ken Sakai
President
E-mail: KenFSakai@pacificdreams.org

 
 
 

パシフィック・ドリームズ・インク好評の異文化研修セミナーシリーズ : 冨永信太郎氏のご紹介

弊社パシフィック・ドリームズが定期的に開催する異文化対応研修セミナーに日本からお越しいただき、ご活躍されている冨永信太郎氏につきまして、あらためてここで皆様にご紹介させていただきたいと存じます。冨永氏は、最近では、日経新聞発行の週間英字新聞”The Nikkei Weekly”を国際ビジネスに活用する方法について日経ノティオで2回にわたって講演されました。また、東京都内の有名翻訳専門学校フェローアカデミーで産業文献日英翻訳を講義されています。その冨永氏に氏の本業はとお聞きいたしますと、「国際商交渉コンサルタント」というお答えが返って参りました。

冨永氏は、大学時代、国際経済学を学びながら、佐世保にあります米海軍基地で働き、米語会話を修得されました。大学を卒業後、東京の商社に勤め貿易実務を体得しました。そこを二年で辞めた後、海外に雄飛されました。海外で住んだことのある国は、インドネシア、シンガポール、英国そして米国です。訪問された国は30カ国を超えます。米国においても30州以上を営業で訪問されています。

訪問した先々で英語を使い、様々な民族の商人集団とまさしく“斬った張った”の交渉を経験してこられました。そんな中で冨永氏が到達された思いというものがあります。それは「商交渉は知的格闘技である」ということです。そこでは英語は武士における刀と同じであると。英語は商交渉を有利に進めるために必須な道具です。しかし、武士が刀を愛し、常に錆びない様に維持し、そして神聖なる存在として心から大事にしていたように、冨永氏も英語を武士に対する刀のような存在として大事に扱い、日々の研鑽を積んできたと

お話されています。

冨永氏はシンガポールにいた頃、日本の某電子部品製造会社のシンガポール製造子会社を設立し、工場長として工場経営をなされていた経験をお持ちです。その時、冨永氏はマレー人、インド人、中国人から構成される工場作業者に対する人事管理と連動した生産管理システムに想像を絶するほどの苦労を経験されました。そういった実体験の中で、異民族、異文化、多言語が混在するような生産現場においては、日本で特徴的な生産管理法式は普遍的ではありえないということを痛感されたといいます。

たとえ英語力に秀でていたとしても、生産管理は言語を越えています。言語の礎となっている文化を理解して初めて順調な生産管理が可能となることを冨永氏は発見されました。そういう皮膚感覚からなる知識を応用しながら、冨永氏は、現在、「異文化商交渉」「異文化コミュニケーション」「異文化経営管理」「異文化生産管理」に関する研修セミナーを日本人及び英語を活用する外国人のビジネスピープルにご提供されているのです。

5月に行われます冨永先生のセミナースケジュール

5月16日(水)1:00PM – 5:00P M 「日本企業の持つ高生産性と高品質の秘密:文化の違いと言葉の壁を克服して、アメリカで展開させるノウハウ」

5月17日(木)8:30AM – 4:00PM “Communication and Negotiation with Japanese Business People”(アメリカ人向けセミナー)

5月18日(金)8:30AM – 12:00PM “Effective Presentation & Win-win Negotiation with Japanese Customers ”(アメリカ人向けセミナー)

5月18日(金)1:00AM – 5:00PM 「契約書の基礎知識と契約交渉の基本」

5月19日(土)10:00AM – 1:00PM 「技術者・経営者・翻訳者のための英文法セミナー:冠詞と名詞の徹底理解と徹底活用」

5月19日(土)2:00PM – 5:00PM 「技術者・経営者・翻訳者のための英文法セミナー:前置詞の徹底理解と徹底活用」

5月22日(火)8:30AM – 4:00PM 「日本人のための英語による自己表現術とプレゼンテーションスキル向上セミナー」

5月23日(水)8:30AM – 12:00PM “Secrets of Quality and Productivity in Japanese Companies : Proactive & Continual Dialogue Observed at Toyota Motors and Seven Eleven Japan”(アメリカ人向けセミナー)

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org


 

ここのところ、ほぼ週1回のペースでブログへの書き込みをせっせと続けております。(私のブログのアドレスは、http://blogs.yahoo.co.jp/kenfsakai/です。)昨年9月のブログ開設以来、私のブログへのご訪問者数がようやく2,000名様を超えたところです。アメリカからお届けする鮮度と感度にすぐれた情報を目いっぱい詰まったブログとなることを目指しています。面白いと思われたブログの記事には、ぜひともコメントをお送りくださいましたら、このようなブログを書いている身にとりましては、本当に励みになります。

さて今月号の「翻訳トーク」の中でも、最後に2つほど、最近のブログの書き込みをご紹介させていただきます。思いついたときでけっこうですので、ときどき私のブログのチェックもしてみていただけますよう、何とぞよろしくお願いします。

翻訳者と翻訳会社のパーティ

4月19日(木)

先週の木曜日(4月12日)に地元ポートランドのダウンタウン近くにあります、かなりというか、超今風のレストランで、“Fusion”というグループの名前で、個人の翻訳者と翻訳会社で働く人たちのパーティが開かれましたので、参加してまいりました。

この種のパーティは、ポートランドでは3回目で、私は、昨年11月に開かれたパーティに参加したのに続いて今回2回目の参加です。半年に1回ぐらいの割合で開かれているようで、2回目よりも3回目の今回の方が大勢の人が来ていました。

アメリカで翻訳関係者のこのようなパーティや集まりなどがありますと、日本のように日または英日翻訳者だけの参加者ということはありえない話になりまして、ほとんど、世界中からアメリカに来ている(移民としてきている)人たちとお会いして、それぞれの言語についての翻訳の話を英語で取り交わすというスタイルになります。

さすがは、言い古されてはいますが、“人種の坩堝”であるアメリカらしい風景がこの翻訳者の集まりの中では展開されます。ヨーロッパ(フランス、ドイツ、ベルギー、ポルトガル、ポーランド、チェコ)、ロシア、メキシコ、エクアドル、ブラジル、中国、台湾、韓国、そして私と弊社スタッフの純子さんを入れた日本人とザーと手短な会話と自己紹介を交わした中で、様々な国々の人たちが入り混じっての賑やかなパーティでした。

もちろん、アメリカ人もそれなりにいましたが、参加しているのは、翻訳会社やローカリゼーション会社で働いているプロジェクト・マネージャーと称する人たちです。私の会社も彼らから仕事をもらうこともあって、まあお客さんでもあるのですが、けっこう年齢が若い連中(だいたい30代前半ぐらい?)であるのと、かなりカジュアルないでたちで来ているのに少々驚きを覚えました。

ビジネス・カジュアルなどという言い方がこちらではあるのですが、彼らは、まるでアメリカの大学生のような装いで、年齢が30代であるから、学生という感じには見うけられませんでしたが(そんなこと言っても、30代で働きながら大学に通っている人もアメリカではちっとも珍しくも何でもないのですが)、まあ、服装にもう少しビジネスのビの字ぐらいが出ててもいいんじゃないという気がいたしました。

今回のパーティでは、すべての言語の方々とお話しができたことが高い満足感につながりました。以前このようなパーティや集まりに出ますと、やはり日本人やアジアの人同士だけでかたまってしまったり、数で勝るスペイン語圏の人たちのパワーに圧倒されたりという具合で、他言語、他文化の壁がそれなりにあって交流を狭めていることを意識せざるを得ませんでした。

今回は、レストランの暗くてアナーキーで無国籍的な雰囲気もそれなりによかったですし、同じ文化圏同士で参加者がかたまっていなかったので、対等にそしてお互いがフレンドリーに話すことができて、本当に楽しいひとときでありました。個人で来ていたフリーランスの翻訳者は、サイドビジネスで翻訳や通訳をなさっている人が多いようにお見受けしました。けっこうアーティスト風な方々もいて、普通のビジネス・ネットワーキングパーティとはちょっと趣が異なる、異質の世界を久し振りに浸かることのできたひとときでした。

オハイオ州の幽霊屋敷

4月23日(月)

多分今から10年近く前に遡るかと思うのですが、当時、日本製半導体製造装置販売のために、オハイオ州のシンシナティから北へ1時間ほどいったところにある、とある小さな田舎町の小さな半導体メーカーに何度かポートランドから通っていたことがあります。

そのメーカーは、オハイオ州のウィルミングトンという町にあり、周りはトウモロコシ畑が延々と続く農村地帯そのものの真ん中にありました。半導体工場があるといわれても、近くに巨大なサイロ形をした穀物貯蔵庫(カントリーエレベーター)があって、まるでチーズやバターを製造する乳製品工場のようなつくりをいていたので、これが半導体工場(?)と最初はこの目を疑うほどでありました。

このオハイオ州ウィルミングトンの町にはホテルもなく、シンシナティから1時間ほどかけて車を走らせてたどり着くしか手がないように思えました。しかし、以前三菱シリコンアメリカの半導体工場で一緒に働いていた、アメリカ人エンジニアが、このウィルミングトンにある半導体メーカーに転職したので、彼からこの町には、ホテルはないが、1軒だけB&B (Bed & Breakfast) があるから、そこに泊まったらよいということで、予約を取りました。

道に迷いながらも町に一軒しかないファーストフード店(ケンタッキーフライドチキン)で夕食を済ませた後、もうあたりもほぼ真っ暗になりかけた頃にようやくこのB&Bまで日本からお越しになっていた装置メーカーの海外営業部長さんとともに、たどり着くことができました。アメリカにある大方のB&Bは、古いお屋敷風の家が多いのですが、このウィルミングトンにあるB&Bもご他聞にもれず、100年以上昔に建てられた、荘厳な雰囲気のするビクトリア風のお屋敷でした。今でもその家の中に入ったときのひんやりとした何ともいえない冷たい空気の感触が忘れられないほどです。

家の持ち主は、40歳後半ぐらいの上品な感じのスレンダーな女性でした。彼女が出迎えてくれて、ひととおり古いお屋敷の中を案内してくれて、また明日の朝7時ごろに来て、朝食の支度をしますからということで彼女はその後、すぐに自分の家に戻られました。広い家には、私と日本の営業部長の2人だけが残されました。ポートランドから朝早くに出てきた長旅の疲れで、すぐに眠たくなったので、夜の9時過ぎには、もうベッドにもぐりこんでいたのではないかと思います。

私の部屋は2階で、ちょうどキッチンの上に部屋がありました。ベッドに入った途端、すぐに白川夜船で、熟睡状態です。が、何時かはわかりませんが、キッチンの横にあるドアが開いて、バタンとしまる大きなドアの音に目が覚めました。すると、誰かが冷蔵庫のドアを開け、食器棚から食器を取り出す音や引き出しを開ける音、包丁で野菜を刻む音などが続けて私の耳に飛び込んできました。しかもそれらの音は、とても楽しそうで、料理をする喜びに溢れるような軽快な物音のように聞こえてきました。

私はいったい何が始まるのだろうかと思い、体を起そうとするのですが、まるで自分の体は金縛り状態にあったようで、身動きのひとつも取れないのです。これでさすがに恐怖感を覚えましたが、もう次の瞬間には意識がなく、目を覚ますと朝を迎えておりました。朝8時に食事を取りに下のキッチンに降りていきますと、昨日会ったオーナーの女性の方が朝食の用意をすっかりしてくれており、私たちを笑顔でまた迎えてくれました。

昨夜のことを彼女に話してみようかと思ったのですが、営業部長の人が別の話を持ち出したので、話しそびれてしまいました。後で、昨夜の体験を営業部長さんに話すと、そんな音はまったくしなかったと言うではないですか。彼の部屋は1階でしかもキッチンのすぐ隣にあったので、私の部屋で聞こえて、彼の部屋で聞こえないはずはないのですが!

朝9時に半導体メーカーに出向き、昔一緒に仕事をしていた懇意のエンジニアに昨夜のことをこっそり話してみましたところ、話はなかったけれど、実はあそこのB&Bには幽霊が出るということを真顔で私に言うではありませんか。やはりあれは幽霊だったのか!それにしても真夜中にキッチンに現れて、楽しそうに料理を作る幽霊であれば、誰も恐れおののいたりしないのではと思いました。でも何らかの理由で成仏していないわけですから、日本だったらお払いなどをしてもらうのでしょうけど、アメリカではそんなことは多分しないのでしょうね。そう考えますと、アメリカの古いお屋敷には幽霊がいっぱい住んでいるのではないのでしょうか。アメリカでB&Bに泊まることは、ひょっとして幽霊体験できる格好の機会になるのかもしれないですね。

Ken Sakai
President
kenfsakai@pacificdreams.org


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来月号の翻訳トークもどうぞお楽しみに!