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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2022年1月25日

HRMトーク2022年1月号「2022年は日系企業のDEI元年」

2022年1月は世界中でオミクロン株蔓延のニュースで幕を開けたような感がいたしますが、すでに感染が先行していた南アフリカやイギリスでは、すでにピークアウトが起こり、感染も下火になりつつあります。ニューヨークをはじめアメリカの東部地域でもピークアウトの傾向が見えてきており、今後新たな変異株の再来がなければ、脅威をもたらした新型コロナもパンデミックからインフルエンザのようなエンデミックにその姿を変え、収束に向かうことが期待されます。そこで、今回はコロナ関係の話は横において、別の角度からのお話としてこの2022年のアメリカのHRについての展望を皆様にシェアさせていただきたいと存じます。

別の角度からと申し上げますのは、アルファベット3文字を使ったDEIです。これは“Diversity, Equity & Inclusion”の略になります。日本語にしにくい単語が入っているのですが、あえて訳してみますと、「多様性、公平性、包括性」となるでしょうか。多様性と公平性というのは、日本でもときどき使われている言葉ではありますが、では包括性というのはどうでしょうか?あまり聞きなれない言葉ですよね。少なくとも日常会話の中で使われている言葉ではないと思います。つまり、これらの言葉は多くの日本人にとってもいまだ馴染みの薄い言葉でしかありません。

そこであえて日本語に翻訳した言葉にして使うのではなく、そのまま英語でお使いになり、英語のままでご理解していただくのがむしろ理にかなっているように思われます。最初は英語でお使いいただき、のちにフィットする適正な日本語が生まれてくるかもしれません。それだけ、まだまだ日本では目新しい言葉であり概念であるかといえます。ですが、アメリカではコロナ禍とほぼ軌を同じにして、広く深く浸透してきた言葉であり、概念であります。ちょうど日本では、はやり言葉のようにESGであるとかSDGsであるとかのアルファベット3文字がメディアではもてはやされています。恐らく多くの日本人の方々にとってにはこれらの3文字は馴染みのあるアルファベットの組み合わせだと察しますが、逆にほとんどのアメリカ人には聞いたこともない文字の組み合わせです。その意味では、日本のESG/SDGsの対照版がEDIといえなくもないと思います。

さて、日本人の方々には言わずもがなであるのかも知れませんが、ESGは“Environment, Social, Governance”の略で、主に企業投資する際のひとつの新たな投資指標です。もうひとつのSDGsは“Sustainable Development Goals”の略で、持続可能な開発目標を指しています。日本では「エスディジース」と呼ばれていますが、もともと国連が2015年9月に取りまとめた2030年までの17項目からなる達成目標設定になっています。企業投資に関係がない人々や国連活動やその決議に関心を持たない一般アメリカ人にとっては記憶に残らることのないアルファベットの3文字です。では一方のDEIはどうでしょうか。ESG/SDGsに比べれば、多くのアメリカ人にとっては身近に感じられるトピックですので、仮にその3文字の省略が何であるかを知らなくとも、Diversity, Equity & Inclusionだといえば、皆ピーンとくるのではないでしょうか。

とりわけESG/SDGsもDEIも企業活動の中で自社の重要な行動指針を反映している概念であり、目標設定になるのではないかと申し上げられます。建国以来、移民を受け入れ移民で成り立ってきたこの多民族国家であるアメリカでは、DEIは企業にとっても常に避けて通ることの出来ない重要な課題ではなかったでしょうか。それは基本的にアメリカに進出している日系企業様にとっても同じことがいえると思うのですが、アメリカに現地法人を作って進出しても従業員はほぼローカルの日本人や日系人だけであったり、せいぜい(日本語が出来る)アジア系アメリカ人を採用している程度であれば、DEIは喫緊の課題ではなかったといえるのかもしれません。

それでも従業員も今後採用を拡張していく中では日本人や日本語だけに重きを置いて募集をかけるのはいずれ限界が来ると考えられますし、企業の顧客や取引先、そしてステークホルダーなどは、日本人関係者だけに限ることは当然出来なくなりますので、どうしたって遅かれ早かれDEIの課題に直面するときが来るのは自然の成り行きだといえるのではないでしょうか。日本でDEI、その中でもとりわけダイバーシティというとほぼ女性の活用、中でも女性の採用や管理職への比率がイメージされるかもしれませんが、アメリカのダイバーシティは女性はもちろんのこと、性別(ジェンダー)、人種、民族、肌の色、宗教、出身国、市民権、障害者、軍出身者、性的指向など非常に多岐にわたるダイバーシティがそこには存在しています。それらのカテゴリーに位置づけされている人々はアメリカの中では法律上プロテクションがかけられていますので、企業は雇用上、それらを理由とした差別やハラスメント、そして報復措置などをとることは許されていません。

ただし、この企業のDEIは単に法律でプロテクトされているからというよりももっと多くの奥深い問題を内在しています。しかも建国以来、歴史的にも黒人に対する深刻な人種差別が存在し、それは今現在も根深く残っています。そのような連綿と続く人種差別を特に歴史上経験してこなかった日本ではなかなか実感としてわかり得ないところがあるのは事実なのですが、アメリカにお越しになって企業経営なされている日本人の方々にもアメリカのDEIのトレンドや潮流には少なくとも無関心を貫くというのはあまり褒められた話ではないと思います。ESG/SDGsに高い関心を示されている日本の企業関係者の皆様には、同じくこのDEIにつきましても今年は関心を持ってみていただきたいと存じます。2022年は、本コラムの中でもDEIについての記事をたびたび掲載してまいりたいと思いますので、スキップ無しでお目を通してください。日系企業様にとりましても今年2022年をDEI元年の年にできれば、少なくともDEIが何を指しているかがピンとくる年になっていただくことを願っております。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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