HRMトーク2022年4月号「DEIのEを知る」|Pacific Dreams, Inc.|パシフィックドリームス公式サイト

HOME > HRMトーク

アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2022年4月27日

HRMトーク2022年4月号「DEIのEを知る」

今年1月に「2022年は、日系企業にとってのDEI元年」という記事をこのコラムで書かせていただきました。 今回は、1月にご紹介したこのDEI(Diversity, Equity & Inclusion)についての記事の拡大版として、DEIの中のE、すなわち Equity(公平性)に的を絞ってさらに深掘りした内容の記事にしてみたいと存じます。

日本企業そしてアメリカにある日系企業でも最近ではDEIの中のDiversityとInclusion、つまりD&Iについてはそれなりに認識されるようになってきたのではないかと察します。 ところが、DEIのEでありますEquityに関しましては、言葉の認知度もまだまだ低く、多くの日本人の方はEquality(平等性)と混同しているようにおみうけいたします。 ですが、EquityはEqualityとは似て非なる概念でありまして、平等性に関しては日本人の方々は一般的に高い認識をお持ちになっておられるのですが、Equityについてはまだまだ認知度レベルもこころもとないように思われます。

歴史を辿ると、このEquityという言葉は中世イングランドの時代に生まれてきたもので、当時すでに裁判制度も確立されていたイングランドでは、訴えられて裁判にかけられると、そこで弁済やペナルティが言い渡されました。 ところがその償いがどうも金銭面だけでは十分ではないということが起こっていました。 そこで単に金銭面だけによる救済をするのではなく、Equityと呼ばれる金銭面以外での救済手段も追求されるようになりました。 たとえば今まで認められていた権利を放棄させるとか、業務停止や発売禁止命令に処するであるとかいった措置をとることで、金銭による賠償以上の救済手段を編み出したわけです。 このEquityの概念はイングランドが発祥の地で、アメリカで独立戦争が起こるまではイギリスの植民地のひとつであったアメリカもこのEquityの概念とその影響を色濃く受け継いだということが申し上げられます。

昔話はこのぐらいにして、現代においても特にイギリスやアメリカを中心とした英語圏の国々ではこのEquityの概念は社会の隅々にまで影響を及ぼしていて、日本とはかなり異なる独自発展を遂げてきました。 国民の均一性が高い社会を形成する日本では、戦後とりわけ平等性が強調されてきたように感じます。 ですから国民はEqualityの概念には馴れ親しんできているのに対して、Equityに関していえばそれはまだまだ縁遠い概念であるように見えるのではないでしょうか。

日本語には「下駄を履かせる」という表現があるのですが、Equityはそれに近い意味があるのではないかと考えられます。 日本企業のコミュニティでもよくある掛け声のひとつとしては、女性の管理職比率を2030年までに30%まで引き上げるという30%クラブという目標達成の指標があります。 アメリカではすでに女性の管理職比率は平均で45%前後まで到達しているのに対して、日本の多くの大企業ではその比率はようやく10%台に達したかどうかというような有様で、もちろん先進国の中では最低で、世界中でも下位から数えたほうがはるかに早いというのは皆様ご承知のとおりです。

このような状況にあえいでいる日本企業では、恐らくこのままの状況を続けていれば、30%は2030年を待ってしても絵に描いた餅で終わるのが関の山ではないでしょうか。ではアメリカをはじめ西欧諸国ではどうやって女性の高い管理職比率を達成しているのでしょうか。 それは多くの場合、強制力のある法律の施行による面が否めません。 よく言われる北欧諸国の高い男女平等レベルもやはり国の法律が功を奏しているからだと申し上げられます。 アメリカでも雇用機会均等法であるEEO(Equal Employment Opportunity)の法律が連邦ならびに各州から出されているからだといえます。 そして日本とは異なり人々の権利の主張が当然視され、訴訟社会であるということも大きな影響力を及ぼしているものと存じます。

日本にも男女雇用機会均等法などはありますが、まだまだ訴訟になることも少ない日本社会では、法律の施行上における有効性という面では私から見ると疑問符がつきます。 日本では強制力のある法律というよりかは何か体裁のよい努力目標のように映ります。 アメリカでは公的機関へのクレームや裁判所への提訴では、企業にとって足をすくわれかねないほどの多額の賠償金が追徴されることになりますので、法律に従わないことはリスク以外の何ものでもありません。 では強制的な法律があればそれで目標達成ができるものなのでしょうか。 実はアメリカではこのEquityの概念を活用した行政上での仕組みが法律とはまた別に作られています。 その例として挙げられますのがアファーマティブアクションプラン(AAP: Affirmative Action Plan)と呼ばれる入札制度です。 残念ながらアメリカにある日系企業ではこのAAPの制度まで行き着いているところはまだ非常に少ないのではないかとみられます。(ただし、AAPは女性活用促進制度ではなく、人種の多様化採用促進制度になります。)

AAPはきわめて複雑な制度でありますので、本日のこの記事の中では詳しく取り上げることはしませんが、この制度を申請することで会社は連邦や州からの業務を優先的に受託することが出来るようになります。 そのためには会社は自社の従業員の人種構成比率を会社のある地域の人種構成比率の約80%近くまで高めなければなりません。 会社はそのための採用実行計画を作らなければならないので、プランという言葉が最後についているのです。 つまり会社は地域に見合った人種の多様性を実現する努力をしていかなければならず、そのためには多少無理をしてでも有色人種の人たちに門戸を開ける積極的な採用計画を行う必要があるのです。 これはまさにEqualityではなく、Equity の概念から来ている政策的計画だといえます。

日系企業をはじめとして、日本の会社がいずれAAPまでをも視野に入れることができるようになるまで辿りつけるのであれば、日本企業はアメリカの企業市民としてのより成熟した仲間入りが果たせるようになるのではないでしょうか。 そして何よりも自社で働く従業員の人々や地域社会全体にとっても幸福度や福利厚生、そして安全や安心面での発展に寄与できるのではないかと思われます。 まだまだ日系企業に挑戦してもらいたい新たな課題が実はたくさん残されているわけです。 アメリカ社会で真の企業市民として認知してもらうためにも、そしてより地域社会に根ざした存在になってもらうためにもEquityの概念には日本企業にとっても奥深いものがあるということを知っておいていただければと存じます。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

ページトップへ戻る