HRMトーク2022年6月号「Exempt 従業員は時間管理が出来るのか?」|Pacific Dreams, Inc.|パシフィックドリームス公式サイト

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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2022年6月09日

HRMトーク2022年6月号「Exempt 従業員は時間管理が出来るのか?」

クライントである日系企業の経営幹部の方から最近お寄せいただいたHRに関するご質問の中に管理職であるExempt従業員がたまに会社を無断欠勤することがあり、欠勤した理由を尋ねてみてもその理由を一向に知らせてこないことがあり、困っているというご相談がありました。恐らくその従業員は自分はExemptであるから、時間管理はすべて自分の責任で行っている、そのことについていちいち会社に報告する義務まで自分は持ち合わせていないという趣旨のもとに報告してこないのではないかということでありました。さて、ご質問の要点としては、「会社ではExempt従業員に対しての時間管理はまったく出来ないのですか?、あるいはしてはならないのですか?」というものでした。このようなご質問に対して、皆様はどのようにお考えになるでしょうか。

アメリカで働く従業員の勤務上のステータスを法的に規定しているのは、1932年に制定されたFair Labor Standards Act、通称FLSAと呼ばれている連邦労働法です。日本でいうところの労働基準法にあたる、まさにアメリカで働くことに関してのその根幹を雇用主に対して課している法律であるかといえます。このFLSAの中でExemptとNon-Exemptという従業員の法的ステータスの規定が設けられています。法律で規定されているExemptとNon-Exemptではありますが、白黒はっきりとは決め難いグレイで曖昧な部分が残るため、常にこの規定をめぐってはどの時代であっても従業員側から頻繁に雇用主に対して訴訟が繰り返し起こされてきたという経緯があります。

皆様ご存知のようにExemptは賃金は毎回決まった金額によるサラリーでの支払いであるのに対し、もう一方のNon-Exemptは働いた時間分に時給を掛けて賃金が支払われ、週40時間以上働いた分に関しては、通常の時給額の1.5倍の残業代として支払われる規定になっています。Exemptにはこのような残業代支払いの規定は存在しないので、雇用主は得てして残業代を支払いたくないから、あえて従業員をExemptにして、長時間働かせて、残業代支払いはなしとしていると、後から訴訟の種につながるケースが出てくるというわけです。このようにExemptとNon-Exemptはとかく残業代支払いのところに焦点が集まる傾向が強いのですが、先のクライアント様からの件ではないですがExemptに対する時間管理というところにモヤモヤした疑問をお持ちである日系企業様は意外に多いのではないかと察するところであります。

企業として、このExemptに対する時間管理が果たして出来るのかという質問には、「出来る」というのがダイレクトで正しい回答になります。FLSAの法律の文脈にはそこまで書かれていないのですが、企業は従業員がExemptであろうがNon-Exemptであろうが、その法的ステータスに関係なく、すべての従業員に安全で衛生的な職場の提供が義務付けられています。これはまた別の連邦法であります、Occupational Safety and Health Act、通称OSHAと呼ばれる職業安全衛生法での規定が設けられています。その規定に準拠する上で、企業が全従業員の勤務時間や勤務場所を把握し、報告をさせ、記録をつけることに関して何ら異議を挟む余地などないわけです。ですので、従業員のほうもExemptかNon-Exemptかにかかわらず、欠勤や遅刻や早退をする場合には会社に報告する義務があるのだといえます。そこに自分はExemptだから勤怠報告をする義務はないのだという申し開きは通用しません。

もうひとつ、Exemptの従業員が報告してこない理由として、「自分は毎日10時間以上の長時間勤務を余儀なくさせられているし、週末であっても仕事をしている、だからたまには週の中で丸1日出勤せずにいる日を作って、それで何が悪いのだ!」といってくる輩も中にはいるかもしれません。これは、特に企業が正式には規定しているわけではないものの、一部アメリカでは職場慣行として施行が許されている”Comp-Time”と呼ばれる一種のしきたりみたいなものがあります。とりわけExemptは自分はComp-Timeを取るからだといって、会社に出てこない日を勝手に作ることがあります。しかもComp-Timeについて、会社の従業員ハンドブックには特に記載されているわけでもないことが多いのです。長時間勤務しているExemptがこのような暗黙の慣行を持ち出してくる気持ちは分からないでもないのですが、やはり明文化されていないことをあたかもExemptの特権のように引き合いに出してくるのは従業員の公平性の面からしても好ましいことではありません。

以前はこのようなComp-Timeの記述をハンドブックに載せていた企業も一部では見られましたが、いつ未知の新型感染症が世界中で猛威を振うのか予想さえ出来ないここ数年間の経緯からして、Comp-Timeのような制度は時代遅れのレガシーであると申し上げても過言ではないでしょう。企業としては従業員の法的ステータスには関係なく、すべての従業員の時間管理を取り、報告させる義務を負っているのだとお考えいただくことが重要です。Exempt従業員に対しても自らの勤怠管理および会社へのその報告義務を課すことは何ら法律に触れるようなことではないのです。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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