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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2022年7月26日

HRMトーク2022年7月号「COVID-19に感染した従業員に対するアップデート」

COVID-19の変異種であるオミクロン型のさらに亜種BA.5による感染で日本は第7波の感染ピークを迎えており、ここアメリカでも新規感染者の80%は変異種の中で感染力がもっとも強いと考えられるこのBA.5によって感染者数および入院患者数とも全米各地で確実に増え続けております。もはや皆様の日系企業で働いている従業員の中でも、新規感染者がいつ出てきても不思議ではない状況だと申し上げても過言ではないでしょう。そこで今回は従業員の中で感染者が出た場合の対応の仕方について再度アップデートをはかり、ご参考としていただけましたら幸甚です。

まず最初にお断りしておきますことは、以下に書かれてあります感染者対策の内容は基本的にCDCから出されているCOVID-19のガイドラインをベースにしてはおりますが、州(あるいは州の中でも一部のカウンティ)にある公衆衛生監督局によってはCDCのガイドライン以上の基準が設けられているケースもあり、すべてが全米で一律に適用されているというわけでは決してありません。この辺のところが少なからず皆様にとっても煩雑で容易に混乱を招く要因になっている側面ではないかと察せられます。またCDCのガイドラインは必ずしも法的執行力を持つものではなく、ですので法規制という性格のものではないということも念頭に入れておいてほしいと存じます。

まず従業員の中にコロナ感染の兆候が見えたため、PCR検査あるいはFDAが承認し認可している市販の簡易キットによる検査結果で陽性が出た場合は、その日から数えて少なくとも5日間の自主隔離期間を要するため、その間の職場への出社は原則禁止となります。5日が経過した時点で再度検査を受けその結果が陰性に変わった際には、他者に感染しやすい期間は終了したと判断されますので、コロナの兆候が緩和し、解熱剤を使わずに平熱が24時間維持されて、はじめて職場への出社復帰をマスク着用を義務付けた状態で認めるという手順になります。もし5日目が経過した時点で、兆候が緩和されていても再度検査を受けなかった場合には、トータル10日間までの自主隔離を継続してもらわなければなりません。

コロナの検査に関しては、地元にある大手薬局チェーンまで予約を取って出向けば健康保険に加入している限り無料で提供してくれるところがほとんどではないかと思われます。一方で市販の簡易キットを用いる場合には、検査結果が出た日時および写真が取れるもの、あるいはデジタルの検査報告書が有用であることが条件となっています。それらの検査エビデンスが取れないものは基本的には認められないことになっていますので、従業員には事前に伝えておく必要があり、会社は検査結果のエビデンスの提出を従業員に求めなければなりません。

次に濃厚接触者の場合ですが、兆候が出ていない限り、そして検査結果で陽性が出ていない限り、自主隔離は必要ではなく、マスク着用をした状態で職場への出社を続けることが許されます。ここでもコロナの検査を受けてもらうことが非常に重要な要件になりますので、会社は対象となる従業員に対して通常の勤務時間中であったときにも1回2時間までの賃金支払いを行い、検査を受けに行ってもらうことを強く奨励してみてください。(ただし、週末などの勤務時間外での検査については、賃金支払いの限りではありません。)

ここでひとつ日系クライアント企業様からいただいたご質問についてシェアさせていただきます。その企業様ではひとりの従業員から、どうもご自身のお子さんから移され、コロナの兆候ならびに検査結果も陽性であったという連絡が朝一番でHR担当者に入りました。HR担当者は間髪入れず私への質問を投げかけてきて、もちろん名前を明かさないことを大前提に感染者が社内で出たことを他の従業員にも通知しなければならないかと尋ねられました。私もCDCのガイドラインを詳しく読み解いてみたのですが、そのような記述はどこにも見当たりませんでしたので、特に通知する必要はないと回答させていただきました。ただし、その後さらに調べてわかったのですが、カリフォルニア州の公衆衛生局であるCDPH(California Department of Public Health)から出されているETS(Emergency Temporary Standards)では感染者が出た場合は、会社は同じ職場で働く従業員全員に通知する義務を負うという要求事項が書かれてあり、もしその企業様がカリフォルニア州にあるのでしたら通知しなければならないということになります。

以上、従業員の感染に対応する手順について出来るだけコンパクトに記述してみましたが、ここまで読まれて別の疑問を持つ方がきっとおられたのではないかと思います。それは何かと申し上げますと、ワクチン接種者と非接種者とは対応を分ける必要があるのではないのかというご質問です。当初CDCもワクチン接種者と非接種者とでは隔離期間などに違いを設けていたのですが、最新のガイドラインにはワクチン接種したかどうかにかかわらず、同様の対応をするようにアップデートがなされています。会社側としてもワクチン接種の違いにかかわらず同じ対応がとれるのであれば、従業員の接種状況を管理する必要もなくなり、その分の煩雑さからは解除できることになります。

新型亜種であるBA.5はワクチンの免疫逃避性向が見られるという最新の研究結果も出されており、またワクチンを打ったからといっても免疫効果は6ヵ月を過ぎればかなり低減してしまうことも知られるようになってきたため、CDCもあえてワクチン接種かどうかを感染上での対応の違いにまで発展させることを断念した模様がうかがえます。ことほど左様に、今後とも新しく出てくる変異種によってはまだまだ未知の現象が生まれてくることが容易に想像され、その対抗策としても既存のガイドラインだけでは十分に対応するのが難しくなる局面も考えられる次第です。

コロナに対する皆様からの質問も尽きないのではありますが、紙面の関係で最後にもうひとつだけご質問をシェアさせていただきます。それは感染によって10日間の自主隔離せざるを得ない従業員が出た場合、その人の賃金補償を会社としてどこまですべきなのかというご質問です。シックリーブや有給休暇があれば、それらを適用することによって隔離期間中の賃金は100%カバーされます。ですが、入社してまだ間もない従業員やすでにシックリーブや有給をすべて使い果たしている従業員はカバーできるものが会社には残っていません。もし一部の州では義務付けられている短期障害者保険制度などがあれば、その適用がオプションとしては可能になると考えられます。ただしこれは州によってそのような公的制度があるかどうかによるところとなりますので、やはり一概には言えないところとなります。

会社としては、シックリーブや有給の前貸しをそのような従業員に許してもよいかもしれません。ですが、それについても一律でそうすべきだとお答えすることは差し控えさせていただきたいと存じますので、現実問題として発生した場合には、ぜひ個別相談としてケースバイケースでご対応していただくことになります。コロナ絡みのHRへのさまざまなご質問やご相談はいまだかつて経験したことのない前途の見えないチャレンジであると申し上げられるためです。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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