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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2022年10月15日

HRMトーク2022年10月号「州をまたいで働く完全リモート従業員への対応」

コロナ禍を契機としてアメリカをはじめ世界中にある多くの企業でリモートワークが新しく導入され、コロナ禍がほぼ収束した現在に至っても依然リモートワークはニューノーマルとして従業員の働き方にすっかり定着した感が見受けられます。日系企業様での採用面接の中でも、先日も応募者の方からほぼ毎回のようにリモートワークのオプションはありますかという質問を受けると日本人採用マネージャーの方は苦笑いされていました。コロナ禍のロックダウンなどの措置に際してはいやおうなしにリモートに移行していた企業の多くは現在オフィス勤務に戻しているところだと思いますが、それでも完全にオフィス勤務に戻すことはいまだ難しいところがあり、現実的にはオフィス勤務とリモートの折衷型、つまりハイブリッドワークを認めているところが大方の模様です。

どこの企業も既存従業員からの離職率の高さとアフターコロナの業務回復期にあって、人員の増強を図りたいのは積の山なのですが、募集をかけても応募者さえも集まらないというため息交じりのお話を日系企業様からは耳にします。業種や業務によっては、リモートで働いてもらえるという選択肢もなく、現場に出ることが要求されるポジションであるほど、求人を埋めるのに大変なご苦労をなされておいでです。逆に職探しをしている応募者の方はリモートで働ける企業や職種を求めて他州にある応募者から見れば遠隔地に位置する企業にも自身のレジメを送りつけてまいります。100%リモートでも働くことの出来る職種やポジションであれば、住んでいる場所を問わないことになりますから、千載一遇の巡り合わせということも可能性として出てはきます。ですが、現実問題としては制度面でいうとかなりハードルが高いということも申し上げられます。

応募者が住む地域が会社の位置する地域から遠く離れているということは、まず州をまたいでいるということが出てまいります。そうなりますと、そこで州が異なることによって、管轄を受ける州の法律体系や徴収する税金体系も異なってくるということになります。つまり、法律や税金は会社オフィスが所在する州ではない、他州に住む従業員は、その従業員が住む州の体系に従わなければならにというのが原則ルールとなります。これは会社にとってはコンプライアンス上、大きなしわ寄せがそこに発生することになります。国土の広いアメリカは地域によって分断されてきた歴史があります。最近は特に二大政党による政治的な国の分断が特にその亀裂を際立たせています。そうなりますと、連邦法というアメリカ全土で適用される法律はあっても、各州ごとに制定された50州それぞれの異なる州法によって現実的に各州は統治されていることになります。

たとえば保守的なテキサス州に本社を構える日系企業があった場合、完全リモートで働く従業員がカリフォルニア州やニューヨーク州に住んでいたら、それらリモート従業員はテキサス州の法律ではなく、カリフォルニア州あるいはニューヨーク州の法律に準拠した雇用でなければならないということになります。その場合、カリフォルニア州やニューヨーク州にはテキサス州にはない、従業員保護のための多くの法律が制定されています。テキサス州だけを考えればそのような法律への配慮をする必要などはとりわけないのですが、カリフォルニア州やニューヨーク州に住んで、そこで仕事をしている従業員にはテキサスの法律の適用だけでは不都合や不公正、さらにコンプライアンス上での問題が出てくることになります。

あえて理想を申し上げるのであれば、カリフォルニア州やニューヨーク州に住んで完全リモートで仕事をする従業員がいる場合、その人たちのためのその州の法律を網羅した従業員ハンドブックを作って手渡しておくことが模範になります。ですが、各州一人あるいは二人程度しかいないリモート従業員のためにそこまでする必要が本当にあるのだろうかということになりますと、確かに考え込んでしまうところがあります。コロナ前まではこのようなリモートワークをする従業員が他州にいて、その対応をどうしたらよいかというようなご相談を受けることはほぼ皆無でした。ところが今日ではそのようなご相談は日常的にお受けするようになりました。さらにコロナ禍を機にしてあえて感染拡大をしている都市部から他州にあるのどかな田園地帯に移り住んで、完全にリモートで働く従業員もそこそこ出てきているわけです。

他州に住んでいてそこでリモートワークをする一人の従業員のためにその州に合わせた新たなハンドブックを作るべきかどうか、確かに非常に悩ましい課題だと思います。ですが弊社の日系企業様の中には支店オフィスおよびリモートワークをする従業員が全米で8つの州にまたがっているクライアント企業様がいらっしゃいまして、そのクライアント様は8つの州の法律に適合するために8つの異なる各州独自のハンドドックを弊社にご依頼されお作りされたというケースがございました。さらにその後も全8州のハンドブックすべての見直しも定期的になされておいでで、弊社でご対応を続けさせております。その結果、どのような違いが出てきたかと申しますと、各州ごとの法律に見合ったハンドブックとなっておりますので、各州で働くリモートを含む従業員からの会社に対する満足度や納得度が改善され、会社への苦情やクレームが大幅に減ったことが分かりました。

確かに8つの異なる州に準拠する8つの異なるハンドブックを作るのは大変な労力と時間とを要しますが、そのリターンは確実にあるものだと申し上げられます。各州の法律はコロナ禍を通じてますます従業員側の立場を際立たせた従業員寄りの法律に舵を切っていることが分かります。つまり、州独自にもっている特徴を法律で具現化しようという姿勢が明確に打ち出されています。そうなりますと、他州で働く従業員を抱える企業は好むと好まざるとにかかわらず、他州で働く一人のリモート従業員のためにハンドブックの作成や見直しから対応していく必要性が今後ますます要求させられていくことが予見されるところかと察せられる次第であります。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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