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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2022年11月29日

HRMトーク2022年11月号「給与開示透明性(Pay Transparency)はなぜ法令化されるのか」?

皆様すでにご存知である方も多いと察しますが、今年および来年と表題に掲げました、給与開示透明法(Pay Transparency Act)がNY市、CA州、WA州、CO州などですでに施行あるいは来年1月1日からの施行の運びとなります。この法律は企業が求人募集をかけるために求人広告をジョブポスティングのウェブサイトに掲載したりリクルーターに依頼を出したりする際に、給与レンジの開示を企業に義務付けるというものです。ここでいう給与レンジというのは、該当するポジションの最低給与額と最大給与額を意味するもので、求職者はそのレンジを予め知ることができることになります。

さらに本法は、現在企業で働いている従業員からのリクエストがあれば、当該ポジションの給与レンジをやはり開示しなければならない義務を負うこととなります。社内だけでのポジションの公募に関しても同様に開示が要求されることになります。また、その給与レンジは少なくともそのポジションの募集が行われてから3年間は記録として残しておかなければならないとされます。それでは、いったいどうしてこのような法律がいくつかの州で施行となるのか、その理由がお分かりになりますでしょうか。これだけを聞いただけでは恐らく多くの皆様、とりわけ企業の管理側につく方々にとっては釈然としない、落ち着かない気持ちを抱くことになるのではないでしょうか。

NY市では今年の5月に本法の施行が予定されていたのですが、当初反対意見が予期せぬほど多かったため6ヶ月の延期を余儀なくされ、この11月からの施行となりました。その反対意見というのは、募集をかける際に給与レンジを開示したのならスモールビジネスやスタートアップ企業は大手一流企業やエスタブリッシュされた老舗企業との給与レンジの乖離が白日のもとにさらされることになり、中小企業の多くはさらに求人募集をする上で不利な状況をいやがうえにも強いられることになるという理由からのものでした。確かに給与調査を行ってみても大企業であればあるほど、給与レンジは高くなる傾向にあることは衆目の一致するところとなりますので、この反対理由はまっとうで理解しうるものだと申し上げられます。

しかしそれでも6ヶ月の延長期間を経て施行に移されたのは、反対理由以上の別の正当な理由があったからではないかと考えられます。その正当な理由とは、給与レンジを開示することによって、そこに性別や人種、肌の色、年齢、出身国、宗教、障害、性的指向、性の自認などによる給与上における差別的な差異を設けることを抑制することが出来るという考え方に基づいているということがいえるからだと思います。そういった給与における差別的差異を解消させる方向に企業を向かわせることによって、企業内における多様性(ダイバーシティ)を推進させる効果や効能がとりわけ期待できるというわけです。では、企業の多様性を推進させることが企業にとってはたしてどんなプラスになるのでしょうか。

多くのデータからは、企業の多様性の推進はほぼ一貫して企業の生産性や売上、そして収益に貢献していることが分かっています。そして何よりもいままで陽の当らない場所でしか働く機会を得ることが出来なかった”Under-Represented Populations”と呼ばれる様々な領域におけるマイノリティなタイプの人々に対して、より公正な就業の機会を提供することが出来るようになるというわけです。これは恐らく、本法におけるもっとも期待がもてる効用のひとつに数えられるものだと考えられます。もはや給与開示透明法は、企業の多様性推進に関して「待ったなし」を突きつけるストレートボールな法律なのではないかと申し上げることが出来ます。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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