皆様すでにご存知の通り、昨年暮れあたりからサンフランシスコにあるAIベンチャー企業のOpenAI社が開発したChatGPTというウェブ上で自然な文章作成ができるという高度なAI技術からなるチャットボットサービスが瞬く間のうちに世界中を席巻しました。ChatGPIは昨年11月30日に一般公開されたのですが、その公開後1週間で登録者ユーザー数が100万人を超え、さらに2ヵ月後にはなんと1億人越えを達成したという驚くべき世界最速記録を打ち立てています。ちなみに私もトライアルとして早速、以下の2つの質問を尋ねる形で、ChatGPTを使って文章作成を試してみました。
1.セクハラトレーニングは社内でセクハラを防止する上で有効であるか?
セクハラトレーニングは、社内でセクハラを防止する上で有効であると言えます。セクハラトレーニングは、セクハラとその影響を理解することを目的としているため、従業員が社内でのセクハラを認識し、適切な対応をとるようになるとともに、社内の企業文化を十分に理解し、異性間の関係を正しく機能する能力を向上させることができます。これらの方法は社内での性的嫌がらせを防止する上で十分役立つものと考えられます。
2.AIを会社のHRで使う上で注意することは?
1)法的な影響を考慮する – AIをHRに導入する際は、法律・規則に抵触しないかをチェックし、適切な法的枠組みを設ける必要があります。
2)プライバシーの問題を考慮する – AIを用いた場合、候補者の情報が収集・分析される可能性があるため、個人情報保護法に抵触しないよう十分な注意が必要です。
3)正確性を確認する – HR業務におけるAIが正しく機能しているかを確認し、決定するためのデータを適切に収集し、正確な結果を導き出すために確実な検証を行う必要があります。
4)人間の審査を行う – AIを用いた場合でも、最終的な決定は人間が行う必要があります。AIが収集したデータを正しく評価し、正しい決定を行うために人間の審査が行われる必要があります。
各質問に対する上記ChatGPTの回答を見ますと、非常に簡潔に的を射た内容となっていることが分かります。また回答のフォーマットは特に私のほうで指定したわけではなかったのですが、問われる質問の形態によって自動的により適切なフォーマットを選んでいることが分かります。そして結論としていえることは、最初の初歩的な模範回答としてはまずまずの出来といえるべきレベルに達していたといって差し支えなかったということです。確かにChatGPTは驚くべき文章作成機能を有しているAIであることは認めざるを得ないところです。
だからといって、社内のHR機能をこのChatGPTに丸投げするということはまだ相当に時期尚早であると申し上げられます。やはり現段階では、ChatGPTはまだまだ有能なアシスタント的な領域にあると考えるのが適切で、ChatGPTが作成した文章の見直しや推敲、そして書き加えや拡張発展を社内のHR担当者が手を入れていかなければ社内外に出す文章としては、いかにも十分ではない、物足りなさが残ることは否定できません。それでも書かれてある骨子についてはまっとうでありますので、これらをHRとしては生かさない手はないといえます。うまく使えば、業務の時間短縮に繋がりますし、重要なポイントをはずすようなことも防げるのではないではないでしょうか。
ChatGPTのような文章や会話作成型のAIは働く人々にとって汎用性が非常に高く、世界で1億人の人がすぐに飛びつくAIツールというのは実際に試してみて実感できるところです。ですが、AIはChatGPTに限った文章作成型のツールばかりではなく、すでにHRの分野でも応募者や従業員のパーソナリティチェックを行ってみたり、はたまた応募者の採用上における採否までを判断するAIツールが現在では出回るようになりました。ニューヨーク市の今年4月15日から施行が始める新条例では全米で初めてこのAIを使った採用に対しての規制が設けられます。その規制とは、採否を決定するAI自体にバイアスがないかどうかを外部の独立した第三者機関を使って毎年監査を行わなければならない、そして応募者にも採否決定にAIを使っていることを採用プロセスが始まる原則10日前までに通知しなければならないなどの条件を義務付けています。
そもそもAIというものは高度な機械学習を反復した出てきたアルゴリズムをベースとして動いているものですから、機械学習の中で偏った過去の履歴があれば、出てくる判断は過去にあった偏った判断から導き出されたものだということがいえるわけです。こういった判断が今まであったのかどうかを監査するというのは、相当な専門スキルがいるのではないかと考えられますので、そのような第三者機関がはたしてすぐに見つかるのかどうかというのも現実的な懸念材料ではあります。ですが、AIのようなものは簡単にブラックボックス化してしまう性質のものですから、今回のニューヨーク市の条例が果たしてどれだけ功を奏するものであるのかどうか、全米いや世界的レベルでみても衆目の集まるところだと察せられます。
会社のHR業務に限らず今後AIツールがどんどん職場に雪崩を切って押し寄せてくると、いくらAIはアシスタント業務の代用に過ぎないといわれていても、現実的にはまだまだ多くの人々がそのようなアシスタント業務に携わっているわけで、その人たちの雇用継続については思わず一抹の不安を感じます。私なぞは19世紀初期の産業革命期に沸いていたイギリスで起こった織物職人らによる機械打ち壊し暴動であったラッダイト運動をつい回想してしまいました。21世紀にAIに対するラッダイト運動などが触発するようなことがないことを祈念するばかりです。
そのためにも突然降って現れたようなChatGPTをはじめとして、その進化の早さに驚愕するだけではなく、バイアスや差別、不平等や不正が入り込まないようにブラックボックス化を防ぐ法令の整備や会社ポリシーの制定などをAIの進化と同時にバランスをとって進めていかなければならないでしょう。確かに猛烈なスピードで進化し続けるAIにキャッチアップしていくのは容易なことではありませんが、とりわけHR業務においては採用や給与などを含む部分においてのバイアスや差別があってはならないことですので、そのようなバイアスや差別をAIが肩入れさせるようなことがないことを検証していくのはまさに今後HRとしての大きなチャレンジのひとつになっていくことが予想されます。