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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2023年5月10日

HRMトーク2023年5月号「リモートワークで浮上する落とし穴」

WHO(World Health Organization; 世界保健機構)からもCOVID-19の緊急事態宣言の終了が先日発表となり、これでパンデミックもいよいよ世界的レベルで終息段階を迎えることになりました。この宣言終了によって、今後多くの企業では従業員をオフィスや現場といった職場に戻す方針をより明確にそして力強く打ち出してくることになるものかと考えられます。一方でリモートワークを続けてきた従業員の中には、パンデミック終息如何にかかわらず、これからもリモートワークの維持ならびにフレックスな働き方を継続したいという強い思いから会社との拮抗や交渉などが生じてくるものかと予想されます。

会社と従業員とが相互のコミュニケーションをとってお互いがそれぞれの主張や希望を真摯に寄り添って話し合えるプロセスを通していけるならば、職場に戻すか戻さないかはさほど大きな問題にはならないだろうと私は楽観的に受け止めています。ところがリモートワーク上で新たに浮上してきた、会社として看過することができない潜在的な問題が実は顕在化しており、リスクとしての暗い影を落としていることを今回は記述してみます。リモートワークに潜んでいる落とし穴があるということを皆様にもご察知していただければ幸甚です。

それは何かと申し上げますと、リモートワークに固守する従業員の中には、会社以外での場所はどこであろうが自分は関係なく働くことが出来ることだという定義付けを勝手になさっている人がたまに散見されるということなのです。ハワイにバケーションに行ったまま、ワイキキビーチで仕事を続けるとか、RVで広大なアメリカ各地を移動しながら仕事をするであるとか、海外旅行や日本に里帰りした先でも仕事ができるとかといった、いわばノマドワーカー的な働き方やワーケーションなどをイメージしている人がいるとこれはまた会社にとっては別のリスクが浮上してくるというお話になります。

ノマドワーカー的な働き方は、もしその人が会社の従業員ではなくフリーランスのコントラクターである場合には、何か事件があったとしても本人自身の問題だとして会社が関与する懸念はおよそ詐欺や犯罪に染まらない限り、ほぼないだろうと申し上げられます。しかし、その人が会社の従業員である場合には、話はまったく異なります。ほとんどの従業員は知らところではないかもしれないのですが、職場とは異なる郡や州をまたいで働いた場合には、厳密にいえばアメリカではその場所で施行されている税制や税法に従い、税金を納めなけれなばならないという法律上のルールが存在しているのです。これらを管轄している郡や州を英語では”Jurisdiction”(管轄区域)と呼んでいます。ご存知のようにアメリカでは市や州が違えば、法律や条令が違うように、実は税制も細かく見ればそれぞれに違いがあります。

確かにパンデミックでのロックダウンの最中は政府もいっせいにリモートワークへの舵取りに打って出ていたわけですので、Jurisdiction ごとの細かな税制の違いまでは目をつぶっていたところがありました。ところが、いまやパンデミック終了宣言が公に出されたわけですから、税当局もこれから先いつまでも甘い目で見続けていくわけにはいかなくなると考えるのが筋ではないかと思います。Jurisdictionごとにルールは異なることを申し上げましたが、職場以外の場所に概ね30日を越える期間滞在をして、その場所で仕事をした場合には、その場所にあるJurisdictionの税制や税法に従わなければならないということになります。しかもその滞在期間は単に30日だけに限定されるわけでもなく、Jurisdictionによっては数日というところも中にはあるのです。

アメリカの中だけでもこういったルールがあるわけですから、それが休暇を使って海外に飛んでいき、その地でリモートで働くといった場合であると、さらなる複雑な海外での税法や税制が待っているということになります。それらを従業員も会社もまったく知りませんでしたということでは、当局からの指摘が入った暁にはもはや言い逃れすることはできないでしょう。未納の税金に対する甚大なペナルティや追徴金、利子などが加算されて当局から請求されるという事態になりうるわけです。

日本に里帰りをしたときを利用して日本でのリモートワークをリクエストしてくる現地採用の日本人従業員の方がときどきいらっしゃることは耳にするところです。ところが何ヶ月も日本で仕事をするということになりますと、たとえ賃金がアメリカの現地日系企業から支払われているということであっても、日本での税の徴収が発生しないという保証にはならないのです。この辺のところは私は公認会計士や税理士ではありませんので、これ以上私の口から断定的なことは申し上げられないのですが、税が発生するのか、それともしなくてすむのか、会社は事前に会計や税金のプロの方々にご相談なされることを強くお奨めいたします。

パンデミック終了は、当然のことながら人々の動きを加速させます。今まで旅行を自粛してこられた方々もこの夏以降、アメリカ国内のみならず海外にも足を伸ばしてみようとなされるケースが格段に増えるであろうことは申し上げるほどでもないほどです。こういった状況下で従業員が事前に会社には何も連絡せず、気がついてみたら、他州や他国からリモートで仕事をしていたことが後から発覚するというようなことは会社にとっては最も避けなければならない事例であろうと考えられます。その意味でも会社としてパンデミック中のリモートワークとはまた異なる、恒久的な平時のリモートワークポリシーを再度作って、従業員に配布する必要があります。これは喫緊のテーマとして会社で対応していかなければならない課題です。さもなければ、異なるJurisdiction下の税当局から税未払いの指摘やペナルティを受けるという考えもしなかったリモートワーク上での落とし穴に会社も従業員自身もはまってしまうことになりかねません。ころばぬ先の杖として潜在的なリスクの所在があることを喚起させていただきます。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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