日本ではそれなりに何百人、何千人という従業員を抱えていらっしゃる中堅企業様あるいは一流企業様ではありましても、アメリカの現地子会社は数人から20人にも満たないという小所帯でこの大国での事業を回している日系企業様は決して珍しくありません。そうなりますと、従業員が潤沢にいらっしゃる日本の本社と比べますと、どうしても一人当たりがカバーしなければならない業務分野もおのずと広範囲になり、「私のジョブディスクリプションに書いてありませんので、その業務はできません」という物言いは現実的にほぼ通用できなくなります。(とはいっても、そのような物言いは時々従業員の口から聞こえてくるのもまた事実です。)
少人数で会社の事業に対応しなければなりませので、いきおい、いくつもの業務を一人で掛け持ちするということも実際には出てまいります。弊社がかかわる分野で申し上げますと、経理担当者が総務や人事の分野を掛け持ちするということはよく耳にするところです。ですが、その担当者の方は、もともとは経理担当としての募集で採用された方であったかもしれません。すると経理で働いてきた実績は十分あっても、小所帯の日系企業に入った途端、今まであまり馴染みのなかった総務や人事の分野もカバーしなければならなくなったという話はよく見聞きされるわけです。
このような場合、その方は経理の専門家あるいはベテランであったわけですが、必ずしも総務や人事のエキスパートというわけではありません。2週間に一度回さなければならないペイロールは滞りなく遂行できても、Non-Exempt従業員への残業代支給の細かな法的線引きなどについては預かり知らないところがあり、正確な残業代計算には不慣れであるかもしれません。しかしながら他に人事に精通する担当者が社内にいるわけではなく、自分で調べる以外に孤立無援の状態を突き付けられてしまうことになってしまうかもしれません。
こういったケースで頼りになるのが、外部のコンサルティングサービスであり、アメリカの小規模企業も状況としては小所帯の日系企業様とほぼ同じで、社内だけで対応するには無理があるからです。ただし、アメリカの小企業と小所帯の日系企業様との明確な違いは、アメリカの小企業は組織上は自分たちだけで完結してしまうのに対して、日系企業様には親会社であります本社の存在や意向というものがあり、必ずしもすべてを現地子会社で完結するということは現実的ではないことがよくあります。そのため対応に遅れが生じ、従業員に不必要に不安や混乱を抱かせ、ネガティブなスパイラルに陥ることも出てまいります。
小所帯であればあるほど、人事などの専門家を社内で常時抱えているなどということはおよそ非現実的であるため、アメリカ企業が頼りにしている外部コンサルティングサービスのほかに、アメリカ企業には選択肢のない、日本の本社にいる人事の専門家からのサポートが得られないのかというところが考えられます。ところが、グローバル化した昨今で最もグローバル化に乗り遅れている組織はひょっとしたら本社の人事部であるかもしれません。ですがこのグローバルの世の中では、本社の人事部こそが小さな所帯で切り盛りしているアメリカ現地子会社の人事部門の面倒をみていくという意気込みがあってしかるべきところです。弊社Pacific Dreams, Inc. では最近、直接本社人事部からのご相談やご指導のご依頼を頻繁にお受けするようになりました。
それはアメリカの現地子会社の主要業務が研究開発や市場開拓であるといった場合、日本からの駐在員様もそれらの分野の専門家であって、人事や総務の専門家では決してないからです。本社人事部が日本からアメリカ現地子会社の人事の面倒を見る、あるいは相談に応じるといった際に、当然のことながらアメリカの人事ついてのある程度の知見や情報を持っていることが要求されます。それがないようでしたら、現地子会社の人事をサポートすることはとてもおぼつきません。つまり、日本の本社人事部は現地で人事の専門家を雇用あるいはコントラクト契約ができなければ、本社としてその責任と役割を果たさなければならないということになります。
さらに本社人事部は、駐在員をはじめローカル従業員を含めた現地子会社で働くすべての従業員のケアをしていく責務を負っているはずです。これらを現地子会社だけの責務として任せておくことはできません。もちろん、現地子会社に人事部門があれば話は別ですが、そうでない小規模な日系企業様では本社人事部の介入と役割は必要不可欠だと申し上げられます。現地子会社で働く従業員に対してより良いベネフィット、具体的には医療保険や障害時所得補償保険、さらにリタイアメントプランなども人事として考えなかればならない重要な部分です。これらを提供するのも現地任せにするのではなく、本社人事部が積極的に関与され、推進役として動いていただければと思います。