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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2024年5月01日

HRMトーク2024年5月号「HRドキュメント作成とコンプライアンス」

アメリカに年内中に進出なされるご計画中をお立てになっている日本の企業様からアメリカでの人事に関するお問い合わせを最近いただきました。具体的にはアメリカの当局に届け出を出さなければならない人事関係の書類作成をお願いしたいというご依頼でありました。私は日本の事情にはあまり詳しくはないのですが、日本では会社の就業規則などはどうやら労基署(労働基準監督署)に提出する義務がおありだということで、アメリカでも日本の労基署にあたる労働機関への同様な書類提出が当然義務付けられているものとのご認識からのお尋ねであったものかと察せられました。

そこで私も届け出義務のあるHRドキュメントはさてどのようなもがあったかを懸命に思い起こしてみようとしたものです。ところが、その手のドキュメントが一向に思いつきません。あえて思いついたのは、100名以上の従業員がアメリカ国内にいる企業にだけ課せられるEEO-1 というアメリカ労働省(DOL: Department of Labor)傘下にある連邦行政機関のひとつでありますEEOC(Equal Employment Opportunity Commission; 均等雇用機会委員会)に年1回提出するフォームぐらいでした。日本から新規に進出なされる企業様が最初から100名の従業員を雇用するということはよほどの巨大企業様でない限りは考えにくいわけで、EEO-1はほぼ対象外だと申し上げてよいものだと存じます。

つまりここで私が申し上げたかったのは、アメリカで会社が作成しなければならないHRドキュメントはそれなりに数としてはあるものの、それらほとんどは行政当局に提出しなければならない義務があるという書類ではないということです。提出義務がない代わりに、作成したドキュメントは社内で保管管理し、定期的に更新したりアップデートしたりする必要が出てまいります。また当局に提出はしないものの、万一当局からの監査が入ったとき、あるいは(元)従業員からの当局へのクレームさらには訴訟沙汰になったような場合には、当然なのですが、それらドキュメントの存在が問われることになります。仮にドキュメントが作成されてない、あるいは不充分な作成であった場合には、それらに対してペナルティや訴訟金額上での上乗せなどにつながる潜在的なリスクが高くなります。

さらにドキュメント作成は法律に基づいて義務となっているものと特に法律上作らなければならないという義務は課せられていないものとに分かれます。ですので、法律で義務付けられているドキュメントは当然コンプライアンス上作成して社内で保管管理しておかなければなりませんが、特に法律で作成義務がないドキュメントであっても、中には法律のコンプライアンス以上に重要視されているドキュメントもあり、法律上におけるコンプライアンスにはかかわらず、ドキュメント作成上において現実に即したプライオリティがあると考えていただいた方がよろしいのではないかと思われます。

それでやや意外かもしれないですが、日本の就業規則にあたるアメリカの従業員ハンドブック、そしてジョブディスクリプションという皆様方にも大変馴染みの深いこれら2大ドキュメントの作成は法律上、特に義務付けられているというわけではありません。ですので企業として作っていなくても別にそれだけでは法律上罰せられるということはないのですが、これらのドキュメントを持っていない企業を探すのはいまどき珍しいといってもよいのではないでしょうか。従業員を採用して従業員とともに企業経営を続けていくには、ほぼなくてはならない肝心要(かなめ)の必須ドキュメントだと申し上げられますが、法律では義務付けられていないというところが何とも奇異に響きます。

ですが、ハンドブックもジョブディスクリプションもその中に書かれてある記述については、法律上のコンプライアンスに従っていなければなりませんので、必然的に法律に反する記述を載せるようなことはできませんし、以前は何も問題がなかった記述であってもひょっとしたら今年から法律が変わったことによって、新しい法律に触れてしまう記述になっているかもしれません。ハンドブックやジョブディスクリプションは法律では必要なくとも、そこに書かれてある記述の中身は法律上のコンプライアンスが課せられるているといえるわけです。

ことほど左様にアメリカでのHRドキュメント作成それ自体は当局への提出義務があったり法律上の作成義務があったりといった縛りが課せられているわけでもない場合がほとんどです。しかしいったん作成したドキュメントには法律上のコンプライアンスに従うことが要求され、そこをないがしろにしていた場合、あとから当局や(元)従業員からのクレームや訴訟といった手痛いしっぺ返しを負わされるリスクがつきまといます。つまり法律にかかわらず、企業経営を守るためにはドキュメントの作成は避けて通ることはできず、それらドキュメントも一度作成すればそれでおしまいということにはなりません。(できれば毎年1回の)定期的な見直しをかけてみるということを習慣づけていく必要が出てまいります。

それらをHRの専門部署がない所帯の小さな日系企業ですべて面倒みなければならないというのはなかなか至難の業だと思います。外部の信頼できるサービスやリソースを上手に使うという選択肢は常にありではないかとお考えになっていただき、ドキュメントにおけるコンプライアンスに抜かりのないないように体制作りを敷いておかれますことを強くお薦めしたいと存じ上げます。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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