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アメリカから発信! HRMトーク 人事管理ブログ by Ken Sakai

2024年6月08日

HRMトーク2024年6月号「バックグランドチェックの効用と制限」

アメリカで企業が応募者の新規採用をする際に必ずと言ってよいほどついてまわるのがバックグランドチェックの実施です。アメリカ以外の国ではヨーロッパも含めてそれほど実施されているわけではないようですが、アメリカの企業の何と96%は何らかのバックグランドチェックを採用時に実施したことがあるという統計がSHRM(Society of Human Resources Management)から出されています。アメリカは他国と比べてみてもそれほどにも犯罪率の高い国であり、過去に犯罪を犯した人の割合も高いということが申し上げられます。(応募者の11%は過去に逮捕歴または犯罪歴を持っていると言われています)

さらに最近では外部の第三者機関を使ってのバックグランドチェックをかけるほかに、自社で応募者のソーシャルメディアアカウントのチェックを入れる企業が全体の70%に及び、社内でバックグラウンドチェックのポリシーを作っているところが77%あります。日本にいたら、まずバックグランドチェックを行っていない日本企業様にはバックグランドチェックをして過去に犯罪歴がなかったどうかを採用時に確認をするというプロセスにはやはり馴染みが湧いてこないものと思われます。ですがアメリカではもはやそれはしごく当然のことで、企業や従業員を犯罪や訴訟から守る上で欠くことのできない手順となっています。

バックグランドチェックの実施には法律(連邦法および州法)と公的機関からのガイドラインでその運用には様々な制限が掛けられています。連邦法は、FCRA(Fair Credit Reporting Act; 公正信用報告法)という法律で、バックグランドチェックをするための正当な目的、公正性、本人からの同意、プライバシー保護などのルールが規定されています。あくまでもバックグランドチェックは限られた目的の中でしか行うことが許されておらず、その目的のひとつとして雇用前調査が実施されています。各州の州法ではさらに細かなルールが取り決められており、特に人口も企業数もそして犯罪数も多い、カリフォルニア州やニューヨーク州にはバックグランドチェックについての微に入り細を穿(うが)つ法律が制定されています。

労働省(DOL: Dept. of Labor)の管轄下のもとで連邦行政機関に位置付けされております、EEOC(Equal Employment Opportunity Commission; 雇用機会均等委員会)には“Enforcement Guidance on the Consideration of Arrest & Criminal Records in Employment Decisions”つまり、「雇用決定における逮捕歴および犯罪歴に対する考慮する上での強制ガイダンス」というガイドラインが出されており、EEOCのガイドラインは必ずしも罰則が設けられている法律というわけではないのですが、本件に関しましてはEnforcement(強制)という文字がつけられているほど、ほぼ法律であるとみなしていただいた方がよろしいかと存じます。このガイドラインでは、犯罪歴が調査できるのは7年前までと制限されており、以下のような項目を採用時には(ただし例外もあるのですが)考慮に入れなければならないとされています。

1) 犯罪と職務との関連性

2) 犯罪を犯してからの歳月

3) 犯罪の深刻度(Felony – 重犯罪あるいは Misdemeanor – 軽犯罪)とその回数

4) 社会復帰するための努力や社会奉仕活動

このようにEEOCのガイドラインに従いますと、仮にバックグランドチェックで過去の犯罪歴が出てきたときにその事実だけをもってして採用をむげに取り消すことはもはやできないということがうかがわれます。バックグランドチェックの結果に基づいて採用を却下するかどうかの慎重な検討を少なくとも社内で行う必要があります。

アメリカの社会では“Second Chance”といって、過去に犯罪を犯して服役した個人に対しても再就職および再雇用の機会を与えるべきだという世論が近年急速に広がりつつあります。現実的にそういった犯罪歴を持つ個人はアメリカ社会ではもはや決して珍しい存在ではないということも申し上げられます。服役して罪を償った人が再度人生をやり直す道筋をつけてあげるというのは再犯に陥らないためにも道理のかなった社会的同義であると考えられます。また巷での人手不足の現実に即してみても、貴重な労働力の一躍を担ってもらえるリソースになるのかもしれません。

弊社オフィスがあるオレゴン州ポートランド市に、Dave’s Killer Bread(https://www.daveskillerbread.com/)というオーガニックでNon-GMOの分野では全米中でそのテイストと品質とで脚光を浴びる製パン会社があります。外見はごく普通の製パン会社にしか見えないのですが、この会社のCEO兼社長であるDave Dahl はその昔、違法ドラッグの保持およびドラッグが起因した暴力事件を何度も引き起こして計15年もの間、刑務所で服役したことのある元犯罪者だったのです。彼は出所後、生家であった小規模な家族経営の製パン会社に出戻りした後に始めたことといえば刑を終えて出所した元犯罪者の人々を自社で雇用し始めたということでした。現在では同社で働く約3分の1の従業員が過去に犯罪歴を持つ人々です。

Dave’s Killer Bread社はSecond Chance Employer として地元ポートランドのみならず、いまや全米でも一躍その名が知れ渡った服役後のための貴重な職場となっています。バックグランドチェックをHRサービスの一環として提供している弊社を代表して私も一度地元のSHRMのローカルチャプター、ポートランドSHRMであるPHRMAの会合にメンバーとして参加した際にこのDave Dahlの講演を直に聞いたことがあります。彼の話から、刑期を終えて更生した人々に対する社会での受け入れを犯罪社会でもあるこのアメリカは真摯にその責任を果たそうとしている姿が浮かび上がってきたのを目の当たりにした経験でした。

日本人にとっては日本にいたらあまり縁がなかったこのバックグランドチェックでありますが、アメリカでは様々なルールと制限が課せられた上で、公正で厳格な手続きが取られ、採用時でのチェックと審査が掛けられているということをお知りになっていただければ誠に幸甚です。また服役を終えて出所した人々にはセカンドチャンスを与えるという懐の深さもアメリカ社会は同時に兼ね備えているということも知っていただけたら有り難いと存じます。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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