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2024年7月17日

HRMトーク2024年7月号「ドラッグテストのマリファナに関する規制とその対応」

前回のバックグランドチェックの執筆に続いて、今回はドラッグテストについて書いてみます。採用時にバックグランドチェックを実施している企業は、もはや珍しくも何ともないといえるのですが、片やドラッグテストに関しては今までやったことがないという日系企業様は逆に珍しくありません。それでも業種や業界によってはドラッグテストの実施がほぼ義務付けられているところもあります。その代表例としては、州をまたぐ(インターステイトの)配送を行う長距離運転手、建設重機などを扱う運転操縦者、工作機械のある工場やボイラー施設などで働くオペレーターやメカニック、そして医療機関や福祉関係で働く看護師や職員などがそれらにあたります。特に長距離運転手採用の際には、アメリカ連邦交通省(DOT: Dept. of Transportation)から出されている5パネルという5種類の違法薬物テストに合格しなければ採用することが許されていません。

この5パネルのテストの中にはマリファナも含まれているのですが、多くの州ではマリファナの規制緩和が現在進行中という現実があります。医療用でマリファナ使用を認めている州が34州、娯楽用として合法化している州が24州も出てきています。昨年ギャラップ社が行った世論調査ではアメリカ人成人の何と70%がマリファナ合法化を支持していたという調査結果が出されています。このマリファナ合法化支持の背景にあるのは、主に3つの要因があるかと察せられます。そのひとつは、マリファナ所持や使用による有罪判決と犯罪歴による(元犯罪者の)雇用機会の喪失、そして規制を続けることによるマリファナ闇市場の温存とあるべき税収入の逸失というところに行きつくのではないかと考えられます。

バイデン大統領は歴代大統領の中でもマリファナの緩和に極めて積極的な姿勢を示しており、一昨年(2022年)マリファナの単純所持で有罪判決を受け連邦刑務所に収監されている約6,500人全員に恩赦を与えるという大統領令にサインをしています。また今年に入ってから連邦機関であるDEA(Drug Enforcement Administration; 連邦麻薬取締局)はマリファナの分類を従来のスケジュール1からスケジュール3に近く規制緩和する方針であることを発表しています。スケジュール1に分類されている薬物は医療用としての使用も含めすべてにわたって使用が禁止されていますが、スケジュール3に分類されれば、ステロイド剤などど同様に医療用としての使用が正式に認められることになります。ただしスケジュール3になったとしても無許可で医療用に使うことは引き続き刑事罰の対象となることに変わりはありません。

マリファナ所持や使用によって逮捕され、有罪判決を受けて刑に服している人々の多数が、有色人種に偏っているというアメリカの人種差別に基づく社会的な不公正性や分断がついてまわるという汚点の歴史がそこには連綿と漂っています。それらの人々が雇用や教育の機会を失い、住まいの確保もできなくなり、ホームレスになるというマイナスのサイクルが歴然として現存しているのです。さすがにアメリカの世論もそして連邦政府もようやくにしてこのことに気が付き始め、いまマリファナの規制緩和の動きにつながっている次第です。

では、従業員を採用する企業としてはマリファナを含むドラッグテストに対していったいどのようなポリシーを今後立てていけばよいのでしょうか。冒頭でも申し上げましたように、仮にマリファナが近い将来スケジュール3の分類に緩和されたとしても連邦レベルでは5パネルからマリファナが削除されるという緩和にはならないでしょう。そこは分類上の如何にかかわらず、恐らく従来の業種や業界がもつポリシーが貫かれ続けるものと考えるべきです。ですが、一部の州ではそのポリシー継続に対しても企業に待ったをかけるところが出てきています。

その例として挙げられますのが、全米で先んじて採用前のドラッグテストでマリファナの結果次第で採用を決定させてはならないという州法を可決しすでに施行に移している州が出てきています。ニュージャージー州なのですが、同州ではなにも採用前ドラッグテストの施行自体を禁止しているわけではないのですが、ことマリファナに関してはそのテスト結果を採用判断に使ってはならないというわけです。また最新のニューヨーク市の市条例では、採用前ドラッグテストにマリファナを含めてはならないというさらに先鋭化した法律も採択されています。

このように採用前のマリファナのテスト結果を使って採用を決定することへの規制をかける動きが一部の州や市で出てきており、やはりこの流れは今後全米の中でも広がりを見せていくことが察知されます。それでは、運送業や建設業、機械加工業などの従来マリファナを含めるドラッグテストを行ってきた業種や業界は今後どのようにマリファナを含むドラッグテストを実施していけばよいのでしょうか。弊社は、業務サービスの一環として、全米にある日系企業様にドラッグテストのサービスをバックグランドチェックを共に長年ご提供してきております。ですので、採用前のマリファナテスト実施に規制がかけられる州や地域では、ドラッグテストのパネルからマリファナを削除することを推奨しております。

従業員の業務中における安全性や健康面が欠くことのできないと考えられる職場では、法的規制がかけられない限り、今まで通りでのマリファナを含むドラッグテストを実施されていかれるのが本筋であるかと考えます。このように法律や規制が変わっていく中で、企業の持つドラッグテストポリシーなども見直しをしていかなければならないのは申し上げるまでもないことです。まずは、自社の持たれているポリシーが今現在どうなっているのか是非この機会にご確認してみていただけましたらと思います。さらに今後ドラッグテストを施行することをお考えの企業様は、まずはポリシーの作成から手を付けられてみてください。企業がポリシーをもっていなければ基本的にドラッグテストを行うことは出来ませんので。


記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.

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