日本では「士業」といって、弁護士、税理士、司法書士、社労士(社会保険労務士)など「士」という文字が職業名の最後につく、高度な専門知識と国家資格の認定を要する職業の総称があります。「士」が侍(サムライ)に通じるということから別名、「サムライ業」とも呼ばれています。士というのは、その昔の日本では役人という意味で使われており、昔の役人を担っていたのが当時の侍であったからというわけです。
こうした士業では、企業経営の上で欠くことのできない法的紛争時や会計処理、税務報告、そして適正な労務管理規定やそのコンプライアンスなどにおいてきわめて重要なサポートや問題解決の役割を果たしてくれているのは皆さんご存じの通りです。また、さまざまな国や市町村への行政上における専門的で煩雑な手続きや報告、契約書や覚書などの文書の作成を代行して行ってくれます。日本には代表的な8つの士業があるといわれ、「8士業」と呼ばれたりしています。
ここまで申し上げましたのは、日本の事情がベースとなったお話でありましたが、一方のアメリカではどうなのでしょうか。日米を比較してみてやや意外に感じるのは、アメリカには日本にあるような国家試験を受けて国家資格を得るという制度は、あまりないということです。さらに言えば、それらの資格があるにしても資格は国家(連邦)からのものというのではなく、それぞれの州からのものだということが一般的に言えます。弁護士も公認会計士も各州からの資格認定制度であり、州が違えば、その州の資格を再度とらなければ、違う州での専門業務を行うことは基本的に許されていません。
国土が広大で各州が独自の憲法や法律を持っている一つの独立国家のような機能と体制を建国時以来持ち続けているアメリカでは、それは日本との対比の中では自ずと納得できるところかと察します。そしてその資格制度が日本と比べてあまり数が少ないにもかかわらず、人口が日本の3倍以上もあるアメリカではどのようにして資格の少なさを埋めていけばよいか、不思議に感じるかもしれません。弊社Pacific Dreams, Inc. はアメリカにある日系企業様向けのHRコンサルティング会社という位置付けになりますが、弊社は法律事務所ではありません。弊社代表の酒井は連邦や州の労働法や雇用法のことについては極めて精通してはおりますが、弁護士の資格を持っているわけでもありません。
すなわち、アメリカで数少ない資格を持って行っている高度専門職とそれ以外の広大な業務領域でやはり専門性を発揮して現場での業務を行う必要がある場合、特に中小企業の立ち位置において現実的に頼られているのは、士業というよりはコンサルタントになります。もちろん弁護士の資格がなければ、裁判や訴訟に直接かかわることは出来ませんし、毎年の確定申告を企業から連邦および州に提出するには、公認会計士(CPA)の資格を持つ税理士を通じて作成してもらわなければなりません。しかし裁判や訴訟以外にも法律上でのコンプライアンスやリスク管理、勤怠管理やペイロールに関する給与支払い、さらにそれらに関する教育やトレーニングといった分野では必ずしも士業の資格を持たなければできないというわけでもありません。
つまり士業とコンサルタントとの使い分けの選択肢は企業側にあるのだということがわかります。特に財政基盤がさほど潤沢であるわけではない中小企業では、社内外の問題すべてを士業の先生に依頼するというのは現実的な手立てではありません。士業とコンサルタントのボーダーラインを経験上きっちり見極めて適切な使い分けをしている中小企業であれば、それらリソースや打ち手を豊富に持っていて、問題解決が的確でほどよいコスパでご対応されているだろうと言えます。得てして、アメリカでのビジネス経験が浅い日系企業ではなかなかその辺のところをアメリカの同業他社と伍して競っていくというのは、並大抵なことではないと察せられます。
良きコンサルタントはまた士業の専門家との間にも信頼できるパイプラインを持ち合わせており、訴訟や裁判のリスクを感じとれば速やかに懇意にしている士業の先生方を迷わず紹介してくれるはずです。そういった意味では、信頼できる良きコンサルタントはPCP(Primary Care Provider)と呼ばれる「かかりつけ医」あるいは「主治医」に近い存在ではないかと申し上げられます。PCPは医療保険プランの中で必ず決めて登録するように求められており、その決められたPCPのお医者さんを通じてより高度な専門医も紹介してもらえる橋渡し的役割を担ってくれています。
コンサルタントはむしろ士業の先生方よりも守備範囲が相当に広く、そのかわりきわめて高度に細分化された領域においては士業の先生にいつでもバトンタッチができる体制を持っている、その辺の落としどころが士業とコンサルタントとのボーダーラインになるのではないでしょうか。ボーダーラインは本来クリアになっているべきもので、ボーダーラインを挟んでそれぞれの業務領域が決まっているということになります。皆さんには、専門家である士業の先生と領域の幅の広いコンサルタントをアメリカの中でお持ちで上手に使い分けなされていらっしゃいますでしょうか?まだお持ちでなければ、一度この私、Pacific Dreams, Inc. の酒井までご相談ください。
《記事執筆》
Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.
kenfsakai@pacificdreams.org