ここ数年で日本でもこの「ジョブ型雇用」という言葉はすっかり定着した感じがいたします。さてこのジョブ型雇用に対して、従来の伝統的な日本型雇用を称して、「メンバーシップ型雇用」と呼ぶのも皆さんはきっと耳にしたことがおありかと存じます。しかし日本での雇用は会社と従業員との間で雇用契約書を入社時に取り交わして、基本的によほどの理由がない限りは、従業員の雇用を生涯にわたって保証するというものでありました。つまり従業員は、会社という名のクラブの一員になるということを意味するので、メンバーシップ型雇用といっているわけですが、別にそのクラブのメンバーになったからといって、生涯メンバーに留まる必要もないわけです。
通常であれば、学校を卒業すれば自ずとクラブから外れますし、引っ越しや移転があれば、クラブのメンバーを継続することも難しくなります。ですが、日本の会社では、単なる社交クラブの体裁を求めているのではなく、そこにはある種、強制的ともいえるプレッシャーがかけられた規律や拘束とがあり、従業員を覆い囲んでいるフシがあります。ですので、私の眼からすると、メンバーシップ型というのは表向きは呈の良い呼び方であっても、実際には体育会系型雇用とでも呼んだ方がさらにしっくりくる感じを抱きます。
日本は昭和の時代が終わって40年近くの年月がいま過ぎ去ろうとしている中で、いつまでも体育会系型雇用を続けていくのは、グローバルエコノミーの時代にあってはいかにも時代錯誤的であり、旧態依然の慣行だと申し上げましても過言ではないと思います。それで出てきた言葉がジョブ型雇用というわけですが、どうも多くの方々が考えているこのジョブ型雇用は、従業員一人一人のポジションには、ジョブディスクリプションという職務内容が書かれた書式がついてまわり、それに従って業務をこなすのがまさにジョブ型雇用だというような認識ではないかということであります。
日本でも外資系企業の国内進出に伴って、ジョブディスクリプションをもった形が一部で普及してきたという要因もあるのかもしれません。しかし、多くの皆さんが何となく肌で感じてきたのは、昭和が終わった後の日本の低成長時代に従来の雇用形態では日本はますますグローバルエコノミーから取り残されてしまい、「ゆでガエル」状態が今後も続いていくことへの懸念なのではないでしょうか。人口減と高齢化に拍車がかかる日本国内市場での伸びしろは極めて限定されてくる中で、会社はますますスピード感をもって将来を見渡した事業に取り組んでいかなければならないことは誰から見ても待ったなしだと申し上げられます。
そういった日本の会社が置かれている環境や立場にあって、旧来の体育会系型雇用では会社の事業は放っておけば、自ずとじり貧傾向に陥ります。一方でスピード感をもって会社をまわしていく上では、ジョブ型雇用は適しています。がそこでは、人材の流動は避けられず、昭和の時代では当たり前であった終身雇用という形態は当然衰退していくことになります。私自身、20代と30代までは旧財閥系の大手企業に就職していたことがあり、当時の同期の人間は確かに定年を迎えるまでその財閥系企業内グループ会社に身を留めて、出向先や勤務地は定期的に変わりながらも、定年になるまで一貫して同じ企業グループ内で勤め上げるということが大前提であり、実際そうなされた同期が多かったわけなのです。
私も日本国内にいて、もしも財閥系グループ企業内に留まっていたのであれば、まさにそのような人生を辿って、今ではもうとっくに定年を迎えて年金生活を送っている身になっているはずです。ジョブ型雇用は従業員の流動性を上げ、その分、人の出入りは激しくなり、会社への忠誠心も昭和の時代のようにはとてもいかなくなることは火を見るよりも明らかです。ですが、その体育会系型雇用も終身雇用制度も日本の戦後に出来た、高度成長時代の産物であったことを考えれば、未来永劫に続くものでは決してないことはもはや自明の理なはずです。
なお、ジョブ型雇用はジョブディスクリプションを作ればそれでただちにジョブ型雇用になるというわけでは決してないのですが、それでもまずはジョブディスクリプションの作成から何はともあれ始めてみられることはお薦めいたします。ジョブディスクリプションをまだ作成されていない会社様、あるいはそもそもジョブディスクリプションが本当に必要であるのかということに懐疑的である会社経営者や管理職の方がいらっしゃれば、ぜひ一度、私、パシフィックドリームスのこの酒井までご連絡をいただけましたら有り難いです(kenfsakai@pacificdreams.org)。ジョブディスクリプションの作成は、なかなか奥深いものがあり、会社の業務全体を見直す意味でも非常によい機会になるはずなのです。
